記念日

那千1

「ねえ? 那岐の誕生日っていつ?」
「はあ?」
無邪気に問う千尋に、那岐は顔をしかめた。
先日の自分の誕生日にお祝いしてもらったことを思い出して、那岐の誕生日のことが気になったのだろうが、正直那岐には嬉しくない質問だった。
那岐は捨て子だった。
川に流されているところを、今は亡き師匠に拾われたのだ。

「……知らない。僕の誕生日なんかどうでもいいだろう」
「どうでもよくなんかない! 私だって那岐のお誕生日を祝ってあげたいもん!」
那岐の生い立ちを知らない千尋はなおも食い下がり、那岐は苛々と彼女を見つめた。

「千尋と違って誕生日なんか祝われたって嬉しくないんだよ!」
つい強くなってしまった語気に、案の定千尋が顔をこわばらせる。
後悔がこみ上げるが、それでも謝罪を口にはできない。

「……ごめんなさい」
素直に謝る千尋に、那岐の方が辛くなる。

「二人とも、どうしたんですか?」
「……千尋が僕の誕生日を知りたがってたんだよ」
「あぁ」
口をつぐんだ千尋に代わり、那岐がかったるそうに答えると、風早は事の詳細を把握した。

「一緒にいるんだから、那岐のこともお祝いしたいですよね」
「だから僕は……っ」
再度否定を繰り返そうとする那岐を遮り、にっこりと微笑む。

「それならば、俺達が共に生活し始めた日をお祝いしませんか?」
「はぁ? 何それ?」
顔をしかめる那岐に、千尋がぱぁっと顔を輝かせる。

「うん、お祝いしよう!」
「どうして祝いなんか……」
「だって初めて俺達が3人で出会った日でしょう? 十分特別な日だと思いますよ」
風早の言葉に、内心で毒づく。

(初めて出会った日って、中つ国が滅んだ日じゃん。それのどこが祝いになるんだよ)
那岐の心の呟きに気づいたように、風早が笑みを返す。

「たとえどんな状況であったとしても、初めて出会った大切な日であることは変わらないでしょう?」

「……」

「私、風早と那岐と出会えて嬉しい! こうして一緒にお祝いできるの、とっても幸せ!」

無邪気に喜ぶ千尋に、那岐も降参する。

「……わかったよ。その代わり、ご馳走は風早と千尋が作るんだからね」
「うん!」
三人のお祝いのはずなのに、一人楽をしようとする那岐の言葉に、しかし千尋は嬉しそうに頷く。

「それじゃあ、買い出しに行きましょうか? ケーキも買わないと」

「……いらないよ。甘いものは好きじゃない」

「私は欲しいな! 苺がのってるのがいいの」

「はいはい、ショートケーキにしましょうね」

那岐の呟きを黙殺し、千尋に甘い風早が頷くと、那岐ははぁ~とため息を漏らす。
それでも不思議と気持ちは穏やかだった。
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