寝ても醒めても

風千20

「どうしよう……」
声にした途端、千尋の顔が真っ赤に染まる。
自分の悩みが恥ずかしくて、千尋は意味もなく手をバタバタと動かす。

「私ってエッチなのかな……」
「どうしてそう思うんですか?」
つい漏れた呟きに思いがけない返答があり、千尋は弾かれたように顔を上げた。
そこにはいつの間にやってきたのか、彼女の従者であり恋人でもある風早が立っていた。

「か、か、風早っ!?」
「はい」
「いつ来たの!?」
「つい今しがたですが……ノックしましたよ?」

首を傾げる風早に、千尋はノックにも気づかないほど思い耽っていたのかと、さらに顔を赤らめる。

「千尋? 何か悩み事があるんですか?」

それなら俺に話してみてください、そう告げられ千尋は困ってしまう。
千尋の悩み……それは風早に関することだった。
だけどその内容は、本人にはとても恥ずかしくて言えたものではなかった。

「な、なんでもないの!」
必死に首を振れば、全てを見通すような金の瞳に囚われる。

「俺には言えない事ですか?」
「………っ」

率直な問いに、千尋は困って俯いてしまう。
口にするのも恥ずかしいが、こうして風早に心配をかけるのは本意ではなかった。
だけど……やっぱり恥ずかしい!!

いつもと違う千尋の様子に、風早は不思議そうに彼女を見つめていた。
明らかに何かに悩んでいるのだが、それを風早には言えないようなのだ。
もともと隠し事が苦手な為、大抵のことは打ち明けてくれるというのに一体どうしたというのか?
う~んと口元に手をやり考えていた風早は、千尋にある提案をする。

「では、俺が千尋の悩みそうな事柄をいくつかあげるてみので、もしあっていたら教えてくれませんか?」
「……うん」

口にするのは恥ずかしいが、無下に断ることも出来ず、千尋は素直に頷く。
そんな千尋に、風早は彼女が悩みそうな事柄を頭に浮かべていく。

「女王のこと……ではないですよね。外交も問題はおきてませんし……」

「うん」

「じゃあ、那岐が体調を崩したとか?」

「え? 那岐、具合悪いの!?」

驚く千尋に、風早が苦笑する。

「千尋が心配するような事柄を挙げてるだけです。那岐の具合が悪いという話は、耳にしてませんよ」
「良かった……」

異世界で兄弟同様に育った那岐は、王宮はわずらわしいとなかなか会いに来てくれないので、いつも千尋は心配しているのである。

「一の姫でも那岐でもないとすると……もしかして俺ですか?」
風早の指摘に、千尋が顔を真っ赤に染める。

「さっき自分がエッチかと言ってましたよね? もしかして……」
核心に迫り、おもわず千尋が逃げかけると、風早の口からは意外な言葉。

「もしかして俺に不満がありますか?」
「……っ!?」
目を見開いた千尋に、風早が見当違いな想像をしていく。

「この前、ちょっと苛めすぎましたかね?」
「ち、違うよ!」
「それじゃ……抱き方に不満があるとか……」
「違うっ!!」
段々と具体的な、それも風早との行為への不満と勘違いしていることがわかり、千尋は慌てて否定する。

「その、風早と…することが嫌とかじゃなくて」
「はい」
幼い頃にそうされたように、視線を合わせてまっすぐに見つめられて、千尋は俯き加減に口を開く。

「もっと……て……しい」
「なんですか?」
「……!! ……もっと……だい……ほしい」
「千尋?」
小声過ぎてどうしても聞き取れず、困ったように見つめる風早に、千尋が観念して告げる。

「もっと風早に抱いて欲しいの!」
「え?」

思いがけず声が大きくなってしまい、千尋が真っ赤な顔を両手で覆う。
恥ずかしくて消えてしまいたいが、目の前に風早がいてはそれもかなわず、結局風早の胸に逃げ込む。

「いつも…風早に触れてて欲しいって……そう思って。でも……なんかすごくエッチになった気がして」
「それで恥ずかしがっていたのですね」

風早の言葉にこくんと頷く。
風早にこうして抱きしめられるのは昔から大好きだった。
だけど、今はそれだけじゃなく、肌を合わせて愛して欲しいと思ってしまうのだ。
そんなことを思う自分がものすごくエッチになった気がして、恥ずかしいやら情けないやらで千尋は頭を悩ませていたのである。

「千尋がエッチなわけじゃないですよ」
「…………」
「俺も千尋にいつでも触れていたいんです。それこそ朝でも昼でも、ね」

風早の言葉に、千尋が驚き顔を上げる。
そんな千尋に困ったように微笑みながら、そっと額に口づける。

「だから、千尋がそう思ってくれるのは、実はとても嬉しいんです」
見上げた千尋の唇に、己のそれを重ねる。
触れるだけの優しいキスは、いつからか舌を絡めあう大人のそれへと変わって、千尋が慌てる。

「かざは……んっ」
「千尋からのお願いですからね。今日は一の姫の手伝いも終わっていますし、いっぱい千尋を感じさせてくださいね?」

千尋の返答を待たずに再び唇を封じると、力の抜けた身体を軽々抱えて寝室に向かう風早だった。
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