役得

風千17

いつものように髪を整えてくれる風早に、千尋は落ち着かない気持ちをもてあましていた。
風早と肌を合わせて以来、妙に気恥ずかしくて、二人きりになるとそわそわしてしまうのである。
風早はといえば、まるで何もなかったかのように普段通り。

(私が意識しすぎるのかな? でも、“恋人”に髪を結ってもらうのってやっぱりなんだか恥ずかしい……)
髪を結うために触れているのだというのに、ドキドキ胸の鼓動が早まってしまうのだ。

「どうしたんですか?」
もぞもぞと身体を動かす千尋に、風早が不思議そうに声をかける。

「な、なんでもない!」
「そうですか?」
真っ赤な顔で首を横に振る千尋に、風早はそのまま千尋の髪を結い続ける。

我が身を犠牲にして千尋達を逃してくれた風早を案じ、自ら切り落とした髪も、以前の長さまでとはいかないまでも、多少結い上げるぐらいには伸びていた。
切り落としてしまった時に風早が悲しそうな顔をしたので、以降はずっと伸ばしているのである。

「はい、出来上がりましたよ。大分伸びてきましたね」

幼い頃風早がくれた青の花飾りを飾ると、風早が満足げに微笑む。
風早の嬉しそうな様子に、千尋も嬉しくなる。

「風早は長い方が好き?」
「俺は短いのも好きですけど、やっぱりこうして千尋の髪を梳くのが昔からの俺の役目でしたから、毎日結わいてあげられるのは嬉しいですよ。それに……」

いうや首元にちゅっと口づけられ、千尋が顔を真っ赤にして振り返る。

「こうすることが出来るのも役得ですからね」
「か、風早……!」
口づけられた首を押さえて顔を赤らめてる千尋に、かがむと今度は唇を重ねる。

「………!!」
「愛してます、千尋」
とどめとばかりに愛を囁かれ、鯉のように口をぱくぱくさせていた千尋が、ぐっと言葉に詰まる。

「……私も愛してる、よ」
照れて俯く千尋を抱き寄せると、風早はもう一度口づけた。
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