あなたが傍にいる

柊千3

「ねぇ?柊」
「なんでしょう? 我が君」
「柊の誕生日って、2月29日でしょ? 四年に一度しか誕生日がないのって寂しくない?」
千尋の疑問に、柊は瞳を見開く。

「今まで考えたこともありませんでした。誕生日を祝ってくれるような者もおりませんでしたし……」
「そうなの?」
「ええ」

大きな木の根元で寄り添い座っていた千尋は、可愛い顔をしかめてうーんとうなる。
カレンダーなどなく、暦も大まかなために、個人の誕生日を祝うという習慣が豊芦原にはないのである。
でも、橿原へ逃れていた間、ささやかながらも風早や那岐に誕生日を祝ってもらい、千尋はとても幸せだった。
柊は星見の血を引いているせいか、どこか達観しているようなところがあって、千尋はそんな柊にもっと幸せを感じてもらいたいと思っていた。

「じゃあ、うるう年以外の年は必ず2月28日にお祝いすることにしよう!」
決定とにこやかに微笑む千尋に、柊は口の端をあげて瞳を和らげる。

「我が君のお望みのままに」

「柊の誕生日は、私が必ずお祝いしてあげるからね! あ、プレゼントも何が欲しいか考えおいてね」

「プレゼント……ですか?」

「贈り物のことだよ。誕生日は生まれてきてくれたことに感謝を込めて、贈り物をするの」

「それでは……私の誕生日には毎年あなたの笑顔を」

「え?」

「あなたが隣で微笑んでくれる。それは何よりも甘美な贈り物ですからね」

柊の言葉に千尋は顔を赤らめると、照れ隠しに顔を背けながら、そっと袖を掴んで頷く。

「そんなの……誕生日じゃなくたって、私はいつでも柊の傍にいるよ」
「ありがとうございます、我が君」

千尋を後ろから抱き寄せ、口づけを落とす。
深すぎず軽すぎない口づけは千尋を慈しむもので、安堵の気持ちに包まれる。

「……柊のキスって、すごく優しいのね」
「そうですか?」
うっとりとした顔の千尋に、魅惑的な微笑を浮かべる。

「お望みでしたら、身も心も蕩けさせる口づけも致しますよ?」
「……え?」

柊の大人の誘いに、しかし千尋がわかりようもなく、きょとんと見返す。
そんな無垢な幼さも愛しくて、柊は抱き寄せる腕に力を込めた。

既定伝承に定められた未来以外はありえないと思っていた自分に、違う未来を紡ぎ見せてくれた愛しい王。
こうして今、千尋の傍らに寄り添うことが出来るのは、何よりの至福だった。

「そう……私はすでに尊い贈り物を頂いておりました」
「え? なにを?」

彼をこの至福へと導いてくれた少女は、己の偉業に気づかず首を傾げる。
そんな千尋にくすりと笑みを浮かべると、もう一度口づけ告げる。

「あなたと私が寄り添うこの未来……ですよ」
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