海へ

サザ千1

「ここにいたんだね」
「姫さんか。どうした?」
見晴らしの良い崖の岩の上に腰かけるサザキの傍に行くと、千尋は隣に腰かけた。

「カリガネが探してたよ。そろそろ出航だって。何見てたの?」
「俺の船」
瞳を輝かせて海を見下ろすサザキに、千尋が嬉しそうに微笑む。
以前、船を失ってから、新しい船を持つことがサザキの夢だったのだ。

禍日神との苦しい戦いに勝利し、中つ国に平和を取り戻した千尋は、女王として毎日国の復興に力を注いだ。
そして国が平和を取り戻した頃、サザキと別れる日がやってきた。

女王としての立場と、サザキを恋う思いとの狭間に揺れ動く千尋の背を押してくれたのは、岩長姫だった。
彼女の好意に王宮を飛び出した千尋は、忍び込んだというサザキと鉢合わせ驚いた。
どうしてここにいるのかを問うと、「かっさらうためだ」と答えたサザキにさらに驚かされる。

「あんたに見せたいものがある。広い海、青い空、珍しい食い物、財宝……そして俺の船だ」

差し出された手を取るのに、迷いはなかった。
その日から千尋は、サザキ達日向の一族と行動を共にするようになった。

サザキは仲間たちに攫ってきたと得意げに話したが、これは千尋の望みだった。
サザキの腕の中で、これ以上ない幸福を噛み締めていたのだから。

「すごい船だね」
「だろ!? いや~時間はかかったが、ようやく船を手に入れたぜ。これで山賊なんかに間違われることもなくなるぜ」
「ふふっ」

千尋と初めて出会った時も、サザキは山賊に間違われることを厭っていた。
だが山の中で賊行為を行うのだから、山賊と呼ばれても仕方はなかったのだが。

「今日はどこに行くの? 船長」

「西の海を越えた異国の地に! お宝探しだ~!!」

「ふふっ」

「姫さんの髪に映える紅の髪飾りを探すぞ!」

「私はもうあるからいいよ」

「いいや! 青じゃなくて紅のだ!!」

紅にこだわるサザキに、千尋が首を傾げる。

「どうして紅なの?」
「い、いや、その~」

頬を染めて口ごもるサザキを、千尋が覗き込んで問う。
そんな千尋の視線から逃れるように抱き寄せると、頬をぽりぽりとかきながら照れくさそうに口を開く。

「姫さんを飾るなら、俺の色彩がいいからな」
サザキのささやかな独占欲に、千尋は彼の背に腕を回し抱きしめた。
Index Menu Next→