「ねえ、知盛の誕生日ってそういえばいつ?」
「誕生日……?」
「生まれた日のことを私がいた世界ではそう呼ぶの」
「……なぜそんなことを知りたがる」
「お祝いしたいから」
年始に揃って年をとるこの世界には個別に誕生日を祝う習慣などなく、なぜ望美が祝いたがるのかがわからず知盛はけだるげに日付を思い返した。
「長月23……だ」
「長月って今月だよね? 23……23!?」
「そうだと言っている……」
「23って今日じゃない!」
「そうだな」
「そうだな、じゃないよ!」
そう言えばと聞いてみたのだが、思いがけず誕生日当日とわかり、望美は一人慌てた。
この世界を選び、知盛を選んだ今の望美は彼の妻。
夫の誕生日をこのまま膝枕で終わらせるわけにはいかないと、必死に脳を高速回転させた。
「知盛の好きな食べ物は?」
「酒、だな」
「それ、食べ物じゃないし。まあ、いいや。お酒に合うものを女房さんにお願いして……」
御馳走は女房達にお願いして、次は贈り物。
「ねえ、何か今欲しいものってある?」
「戦場と命を張る相手、だ」
「そういう無茶ぶりじゃなくて!」
なまじ戯言でもないことを知っている望美は眉をしかめた。
「クッ……何を慌てているのやら……滑稽だな」
「滑稽って…夫の誕生日を祝おうって妻としては当たり前のことでしょ」
「それこそ滑稽だ。そのような風習はお前しか知らないのだからな」
「それはそう……だけど」
当然の指摘に自分がこの世界では異邦者なのだと知らしめられたようで、望美はきゅっと唇を噛んだ。
「俺を祝いたいというのならば……これで十分だろう」
「これで……って膝枕?」
「ああ」
銀色の髪が綺麗で触りたいと言ったら、膝枕するなら触れてもいいと言われ、現在に至るのだが。
その現状を思いがけず知盛が気に入っていることに気がついて、望美はふふっと微笑んだ。
「怒ったり慌てたり拗ねたり……飽きない女だ」
「褒め言葉として受け取っとくね」
皮肉げな言葉も慣れてしまえば気にならない。
ようは額面通りに受け取らずに、自分の感じた言葉に勝手に変換してしまえばいいのだから。
「『可愛い大好きだぜ』」
「……何を言ってる」
「通訳」
わざと曖昧に答えるも、将臣の英語交じりの現代語で多少の免疫ができたらしい知盛は、望美が言っている意味を朧に感じ取ったようで、柳眉を不快気に歪めた。
「きゃっ! 知盛っ」
「……今日は俺の誕生日なのだろう? だったら何をしても許されるんだろうな」
「そういうのとは違うから。……ってどこ触ってるのよ!」
腕を引かれ一転、天井を見上げる状態に慌てるも。
煌めく深紫の瞳に、結局は身を委ねさせられるのだった。