砂時計は止まらない

将望52

「はぁ~参ったぜ……」
皆から離れて一人になった将臣は、大きくため息をついた。
天界に来て開いた夢の小箱。
その中身は異世界に流される前の、望美との普段の日常だった。
あの時、時空の狭間に飲み込まれなければ訪れていたであろう、いつも通りの家での望美とのクリスマス。

「あれが俺の願いってこと、か」

自嘲が漏れる。
3年前に胸の奥に封じた想い、願い。
『元の世界に戻りたい』はすなわち、『望美と共に在りたい』ということだったのだ。
しかし浮き彫りになった願いは、現実の世界では夢見ることさえ適わないものだった。
将臣には平家を滅亡の未来から救うという、譲れないもう一つの願いがあるのだから。
指先からすり抜けていく砂のような未来を掴むために、他を見つめることはもう将臣には許されなかった。

狂ってしまった時間の歯車。
ずっと続いていくのだろうと思っていた、失われた望美との未来。
それでも――。


「将臣くーん!そろそろいくよー?」
「おう!」

遠くからの呼び声に片手を上げて応える。
たとえ目覚めた現実でまた会えない日々が続こうとも。

(俺達は再び出会えたんだ。なあ? 望美)

会う事が出来るかもわからなかった3年前とは違うから。
微笑んで自分を待つ愛しい少女の下へ、将臣は歩いていった。
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