「ねえ、春日さんって有川君と付き合ってるの?」
午前の授業が終わってのランチタイム。
進級して新しくつるむようになった少女の質問に、春日望美は顔を真っ赤に染めた。
「う、うん。一応……」
「あ~やっぱりそうなんだ」
「なに? 有川君狙ってたの?」
「だって、カッコイイじゃない」
がっかりした様子の友人に、目を泳がした望美の視線の先を追った私は、そこに立つ姿に内心で頷いた。
整った容姿で女子人気の高いクラスメイト・有川将臣。
家が隣同士だという二人は、幼い頃から仲のいい幼馴染で、高校も同じところに進学したほどだった。
「でも、ずっと違うって否定してたよね? いつから付き合い始めたの?」
「ええと……少し前、かな」
「ああ、もっと早く告っとけばよかった」
「告ったって無駄だって。有川君はずっと、望美のこと、好きだったんだから」
「え? そうなの?」
「なんで望美が驚いてるのよ」
将臣狙いだった友人と同じく驚いている望美に苦笑すると、ジュースを飲みながら以前の二人を思い返す。
望美と将臣が寄り添う姿は、美男美女の羨むカップルだったが、高2までは頑なにその関係を否定していた。
どうして恋人ではないのか不思議なほど、二人はいつも傍にいるのに、互いにその気は全くない不思議な存在。
そう、周りは思っていたが、私は周りとは違う感想を抱いていた。
望美を見る将臣の瞳。
それは、ただの幼馴染を見るには少し熱を感じるものに思えたからだ。
「見てればわかるって」
「そう、かな」
「そうなの」
真っ赤な顔で恥じらっている望美にため息をつくも、そこが彼女の可愛らしさでもあるのだろう。
クラスの中でもとりわけ目を引く容姿と、物怖じしない明るい性格は、ひそかに男子人気が高かった。
けれども、羨みこそすれ妬みがないのは、彼女の朗らかで、この年頃にしては少し幼さを感じる純粋さ故だった。
「じゃあ、クリスマスも有川君と出かけたの?」
「ううん。将臣くんの家でずっとゲームしてたよ」
「ゲーム? クリスマスにゲーム?」
「? うん」
クリスマスにゲーム。
何とも色気のない二人だろう。
半分予想通りともいえる望美の言葉に、ちらりと視線を窓際に移した。
「有川君も何を考えてるんだか……」
「将臣くん?」
「うん、あんたはわからなくていいの」
望美の変わらぬ純粋さに微笑めば、どこか腑に落ちないながらも納得したらしく、再び箸を口に運び始めた……と。
「唐揚げもらうぜ」
「あ! ちょっと、将臣くん!!」
「ん? 少し揚げすぎじゃねえか? おばさんらしくねえな」
「それは……私が、作ったの」
「……は?」
「だから、それは、私が作ったの!」
望美の言葉にきょとんと目を丸くした将臣は、驚いたように彼女を見る。
「食べる専門じゃなかったのかよ?」
「朔と一緒に料理して、作るのも楽しいと思ったの」
「まじかよ。味見役は勘弁だぜ」
「そんなこというと、美味しくできても将臣くんにはあげないからね!」
頬を膨らませた望美を、宥めるように頭を撫でる仕草は愛しげで、思わず見つめていると、将臣の視線がふとこちらを捕えた。
「どうした?」
「……え? あ、うん。お似合いだなって」
「まあな」
てっきりいつもどおりかわされると思っていたのが、超ド級ののろけに男子がどよめいた。
「お、おい。お前と春日さん、付き合ってるのか?」
「ああ」
「お前ら、ずっと違うって否定してたじゃねえか」
「状況が変わったんだよ」
ざわざわ。
将臣の爆弾発言に、一気にクラスがざわめきだした。
「有川君ってあんな人だったっけ?」
「そうみたいだよ」
男子に取り囲まれてる将臣から望美に視線を戻せば、その顔は先程とは比べようもないほど赤く。
けれども、それさえ羨ましいのはきっと、二人が幸せそうだからなのだろう。
「放課後、付き合ってよ」
「え?」
「のろけ。聞かせてくれるんでしょ?」
にやりと笑えば、顔を赤らめながらも頷く姿に、やっぱり少し羨ましいな、と思った。