気になるクラスメイト

将望34

――ふと、目で追ってしまうクラスメイトがいる。

有川将臣。
病気だか何だかでしばらく学校を休んでいたが、冬休み明けに再び登校してきた時にはその雰囲気ががらりと変わっていた。
ついこの前まではどこにでもいる……まあ容姿が良くてもてる奴だ、ぐらいに思っていた。
なのにふとした時に見せる表情は、とても同い年とは思えない……深みのようなものがあって。
そのことに気づいてからは、つい目で追うようになってしまった。
外見が変わったわけではない。
貫禄がある……とでもいうのだろうか。
将臣が冬休み前とは明らかに違うということは、きっと自分以外にも感じているものがいるだろう。

そして時を同じく変化をしたのがもう一人。
春日望美。
正確には、変化が見られたのは将臣よりも彼女の方が先だった。
望美もまた、将臣と同様にその容姿から元々目を引く存在ではあった。
きさくで誰とでも仲が良く、おまけに可愛いと
あっては男たちの気を引くのも当然だろう。
けれど冬休み前のある日を境に、彼女もまた雰囲気が変わっていた。

「なんなんだ?」
幼馴染だという将臣と望美。
家が隣り同士だというが、両家で何かあったのだろうか?
だがどんなことがあればあのような……数多のさざ波を飲み込み静かにたたずむ湖面のような瞳を宿すようになるというのだろう。


「どうした? 何見てんだ?」

「別に……」

「ああ、春日さんか。彼女、なんかいろっぽくなったよな」

「いろっぽく……か?」

「前から可愛かったけどさ、なんか最近はこう、大人の色気っていうか……時折浮かべる憂いた表情がまたそそられるんだよな」

憂いた表情、という言葉に視線を再び望美に移す。
いつも朗らかに笑っている彼女だが、確かに一人になった時ふと遠くを見つめるような仕草をすることがあった。

「春日はダメだろ? 有川がいる」

「あ~そうなんだよな~。あいつらずっとただの幼馴染だって言ってたのに、冬休み明けたら突然肯定しやがったんだよな」

そう。変わったと言えば、二人の関係もまた変化していた。
以前は恋人だと噂が立つたびにまたかと肩をすくめながら否定していたのだが、突然それを認めだしたのである。

「美男美女のカップル……くぅ~羨ましい!」
「……そうだな」
互いに気負わず、接することのできる間柄。
恋人同士としたら理想的なのかもしれない。

「有川も復帰した途端、人気急上昇だろ?」

将臣の雰囲気の変化を敏感に感じ取ったのはどうやら女生徒のようで、クラスメイトはおろか他クラスや他の学年からの告白も増えたらしい。

「何騒いでんだ?」
「イケメンに用はない」
「なんだよ、それ」

購買に出かけていたらしい将臣がパンを持って自分の席に戻ると、虫を払うような仕草に苦笑をうかべた。
……確かにイケメンだ。
ただ顔がいいだけではなく、さばさばとした性格は実に男らしく、人気を鼻にかけるような嫌な奴ということもないので同性にも好かれていた。
本人はたまたま勘が当たるだけだというが試験の成績も悪くない。
顔よし、頭よし、性格よし、運動よし。
恵まれ過ぎている、神様は不公平だと唸る傍らのクラスメイトの気持ちも頷けた。

「将臣くん、購買行ってたの?」
「おう。腹が減っては戦はできぬってな」
「どうせ早弁したんでしょ?」
「いや~譲の奴、また腕上げてよ」
「あ、蒸しパン頂戴」
「100円」
「ケチ」

ひょいっと将臣の後ろから顔をのぞかせたのは、気になるクラスメイトのもう一人・望美。
ふわりと揺れる長い紫苑の髪に思わず目を奪われた。

「春日さん、そんなケチな彼氏やめて俺にしない?」
「そうだね」
「おいおい」
「冗談だよ」
「ちっ」
「お前、本気で言ってただろ」

二人に挟まれ、そのやりとりに一喜一憂しているクラスメイトは、さしずめ道化役と言ったところだろう。

「どうやったらそんなにもてるようになるのか教えてくれ、有川!」

「見知らぬ世界にでも飛ばされてみればいいんじゃねえか?」

「なんだよそれ! くそ~モテ男め!」

笑ってる将臣たちに、ふと望美を見上げて驚く。
先程とは違う憂いた表情は、戸惑いと悲しみ……色んな感情を混ぜ合わせたようなそんな複雑さを宿していた。

「春……」
「ほら。特別にタダでやるよ。あー優しい彼氏だ」
「……今日だけね」

くしゃりと頭を撫で蒸しパンを手渡す将臣に、望美の表情が先程までのものに戻る。
大丈夫……そう告げているかのような掌。
言葉に出さなくとも通じ合っている、そんな空気が二人の間にあるのが見えた。

「いい男だな」
「いい女だろ」
望美に意識が向いているらしいクラスメイトに苦笑して、傍らの二人をそっと見つめる。

自分にはわかりえない二人の纏う空気。
気になるクラスメイトが、二人いる――。
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