九郎さんハピバ!

九望14

「はい、どうぞ」
「ああ。柿か?」
「今日は柿の日ですから」
望美の言葉に、九郎はきょとんと瞳を瞬く。

「お前の世界は記念日が多いな。確かこの前は文化の日、その前は体育の日と言ったか?」

「他の記念日は覚えているのに、自分の記念日は全然なんですね」

「自分の記念日?」

苦笑する望美を見上げれば、柔らかな微笑みと共に贈られる言祝ぎ。

「誕生日おめでとうございます、九郎さん」

九郎の生まれ育った世界と異なり、この世界ではそれぞれが生まれた日に祝う習慣があるのだと、譲や将臣の誕生日に教えられていた。
そして、今日は十一月九日。
二十三年前、九郎が生を受けた日だった。

「ありがたいな……」
こうして自分の生まれた日を覚えて祝ってくれる存在があること。
その幸福をかみしめて、九郎は傍らの望美に微笑む。

「柿だけじゃありませんからね。それは冗談で……ちゃんとプレゼントがあるんです」
後ろに隠していた紙袋から取り出したのは、真っ白なマフラー。

「将臣くんにも相談したんですけど、「お前自身でいいんじゃねぇか?」とかオヤジみたいなこと言って、全然役に立たなかったんですよ。まったく……」
「はは、将臣らしいな」

対なる存在を思い浮かべ笑みを深めると、マフラーと共に望美の手をとる。
暖かな手。
戦が終わり、あの世界で行き場を失った九郎に差しのべられたその手をとって、九郎はこの穏やかな世界へやってきた。

「……将臣の言ったことは正しい。お前がいれば、それで俺は満足なのだからな」

「く、九郎さん? どうしたんですか? 弁慶さんみたいなこと言ってますよ!?」

「どうしてここで弁慶が出てくる」

戦女神と称えられ、勇ましく剣をふるっていた少女は、ことさら色事には疎い。
自分も聡いとは言い難いが、彼女も同じぐらいこういうことには疎かった。
だから、手を引き胸の中へと抱き寄せると、熱をはらんだ顔を見せないように柔らかな紫苑の髪に埋めながら、感謝の言葉を口にする。

「ありがとう、望美。お前からの言祝ぎが何より嬉しい」

「九郎さん……」

「愛している。これからもずっと、俺の傍にいてほしい」

ありのままに想いを伝えると、驚き見上げる少女の唇にそっと重ねた。
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