恋の炎

ヒノ望39

何気なく寄った店で出くわした、望美と彼女に想いを告げる男の姿。
自分の世界だったなら、望美を横から掻っ攫っていただろう。
しかし、今のヒノエにはそれが出来なかった。
同級生と思われる男と、ヒノエとの決定的な違い。
それは望美のために全てを投げ打てるかどうかだった。
熊野別当であるヒノエは、どんなに望美を愛しく思っても、彼女のためだけに動くことは出来ないのだから。

花は戯れるものでしかなく、別当という立場を常に念頭に置いていたヒノエ。
そんなヒノエが初めて夢中にさせられた花・それが望美だった。
以前の自分ならば知りえなかった葛藤。
しかし……。

「やるねぇ……姫君」
自然と口元がつりあがる。
心の揺れさえも楽しいと思えてしまう。
自分へと傾いている望美の心を、自分の意思で共に熊野へと思えるほどに傾けたいという欲求が――願いが沸き起こる。

『ヒノエくんのこと、ずっと考えるよ』

そのかわり、しつこいから覚悟してね?
――そう笑顔で言ってくれた望美。
だから俺も考えよう。
どうやってお前の隣を『俺』にするか。
どうやってお前の居場所に『熊野』を選ばせるか。
お前と熊野と、両方共に手に入れる幸せを。
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