偽りと真実の嘘

ヒノ望1

「ヒノエくんって全部が嘘だよね」
「神子姫様は手厳しいね」
にやりと口角をあげるヒノエにイライラ。
のらりくらりとかわす様は相変わらずで、望美はふいと顔を背けた。

今は二度目の春の京。
一度目とは違い、ヒノエとは六波羅で再会し、行動を共にしていた。
以前と同じように頬を染めるような甘言を囁き、珍しい菓子や綺麗な場所へと連れていってくれるヒノエに、しかし望美は素直に喜ぶことが出来なくなっていた。
ヒノエは全てが偽りだから。

まずは『ヒノエ』という名。
これは通り名で、本名は不明。
そして望美に対する態度。
これも一見優しげだが、裏では龍神の神子としての力量をそれはそれは冷静に見極めているのだ。

望美はヒノエが熊野頭領であることも、本名も知っている。
彼がなぜ身元を隠しているのかもわかっている。
だから、そのことを口にはしない。
けれども他の女の子と同じように偽りの笑顔を見せられるのは嫌だった。
甘い言葉も聞きたくない。
それらすべてが嘘なのだから。

「あ~……不毛だわ……」

嘘の言葉も笑顔も嫌なのに、それでもその姿を探してしまう。
万人に向けるのと同じものだとわかっていても、胸が高鳴ってしまう。
胸の奥深くに宿った想いは、望美を苛立たせていた。

「神子姫様は何がご不満なんだい?」
「その呼び方。私は神子だけど、姫ではないから」
「他には?」

『他の女の子と同じように微笑みかけないで』

そう出かかった言葉を飲み込んで、立ちあがるとぱっぱとスカートの裾をはらう。

「ヒノエくんなんか嫌い」
「俺は好きだよ」
「今日は嫌いな日なの」
「望美は日によって好き嫌いが違うのかい?」
「今日は特別。エイプリルフールだから」
「エイプリルフール?」

耳慣れない言葉に瞳を見開いたヒノエに頷き、紅の瞳を覗きこむ。
四月一日は嘘の日。
だから、偽りだらけのあなたに嘘をつく。
ヒノエくんなんか嫌い。
真実を少しと、その裏の秘めた想いを込めて。
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