blue moon

弁望95

「今日はブルームーンが見れるそうですよ」
「ブルームーン?」
弁慶の言葉に、望美は口に運んでいた紅茶をおろし彼を見つめた。

「ええ。通常、月は一月かけて満ち欠けするので、満月は一月に一度きりだそうです。
ですが稀に暦の関係で一月に二度見れることがあるそうで、それが今夜らしいですよ」

「へえ~そうなんですか」

弁慶の説明を聞き、窓際に寄ると窓越しに空を
見上げる。
天体ショーの当たり年といわれている今年だが、生憎と望美が住んでいる地区は天気に恵まれず
見損なうことが多く、晴れ渡った今宵の夜空にブルームーンは絶好の観測状態だった。

「ブルームーンって月が青く光るんですか?」

「いいえ。珍しいという意味でそう呼ばれているようです。実際青く見えたこともあったようですが、色々条件が難しいらしいですね」

「そうなんですか?」

「ええ。だからこそ稀なるものを見ることが出来る強運があるならば『願いがかなう』んでしょうね」

「願いがかなう? そんな謂れもあるんですか?」

「ええ」

弁慶の言葉にもう一度月を見上げると、確かに
今日の月は澄んで美しく見えた。

「まるで君のようですね」
満月、という意味を持つ望美の名。
しかし望美はその言葉に、ふるふると首を振った。

「……私はあんなに綺麗じゃありません」

流されるまま進んだ一度目の時空。
度重なる敗戦、そして燃えさかる京で望美は
一人、逆鱗の力で時空を超えた。
苦しくて、苦しくて。
何も成さなかった自分が悔しくて、情けなくて……許せなくて。
人には余る力だと知りながら、それでもその力を行使し、一人何度も時空を巡りながら望む未来を紡ぎ直した。
そう、勝手に紡ぎ直したのだ。
望美が運命を変えたことで命を落とした者もいるだろう。
それでも、自分が救いたいと思う者に手を伸ばし、結果零れ落ちた者たちを犠牲にしてきた。

「君は綺麗ですよ」

自らを枷にしてかの神を封じようとし、自身を
喰われそうになった望美。
知らず侵食されていく不安にそれでも必死に立ち向かい、この地を救ったのは穢れなき神子だった。
望美が何に苦しみ、何を隠しているのか、その
全てを弁慶は知るわけではない。
けれども神子であるゆえに抱える苦しみがあることはわかっていた。

「ねえ、望美さん。共に願をかけませんか?」
「願かけ、ですか?」
「ええ」
「いいですけど……何を願うんですか?」
「君と僕の未来です」
「私と、弁慶さんの……未来」

時空を超えて知り合った二人。
弁慶のいた時空を救った望美に、今度は彼女の
時空を救おうとやってきた弁慶は、心通わせそのままこの地に残ることを選んだ。

ただ願うことは無意味だ。
神は万能ではない。
そのことを弁慶は痛いほど知っている。
けれども、人の強い意志は奇跡を生むことを知った。
だからこそ、願う。
望美との続く未来を。

「そうですね」
微笑んで、弁慶の手を握る望美の手を握り返して。
月を見上げ、共に願う。
この先もずっと共に在ることを。
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