手を繋ぐかわりに

敦望11

『戦は終わり、この世界も救われた。私の八葉としての役割も終わったはずだ。
だが私はいまだ存在している。リズ先生は私が存在する意味があるのだろうとおっしゃっていたが……本当にそうなのだろうか』

『そうだ。龍脈は乱れている。龍脈を穢す人ならざるモノが存在しているということだ』

図書館での敦盛の言葉が、望美の頭の中でこだまする。

(敦盛さん……もしかして龍脈の乱れは、自分が原因だと思っているの……?)

一度病に倒れ、怨霊として再びこの世に甦った敦盛。
敦盛がそのことで酷く自分を卑下していることが、望美は心配だった。
望美にとって敦盛が人間であるとか、怨霊であるとか全く関係なかった。
今、傍にいる敦盛が望美の大切な存在なのだから。

ふと、彼の手に目をやる。
敦盛の優しさを現すような、繊細な指先。
その指に絡めて、手を繋ぎたい。
だけどそれをしたなら、きっと彼は「自分は穢れている」とすぐに解いてしまうだろう。
だから――。
つん、と服の袖を引っ張られ、敦盛が驚いたように望美を見た。

「ここに、私の傍にいます」

微笑むと、望美の考えが分からない敦盛は、困ったように眉を下ろす。
今はまだ、その指に絡め手を繋ぐことは出来ないけれど。
いつかは彼と触れ合いたい。
そんな願いと想いを込めて、望美は敦盛の袖の端をそっと握った。
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