平家の神子

ヒノエ7、エピローグ

後日、後白河院立ち会いのもと、京の神泉苑にて改めて平家と源氏の和議が取り行われた。 清盛は最後まで渋っていたが、将臣や敦盛・望美の説得に折れ、頼朝も茶吉尼天を失ったことで不利を悟ったのか、冷ややかな顔で調印した。
長年にわたった源平の戦は、神子の活躍によって幕を閉じたのだった。

 * *

「わあぁ!」

京を一望して、望美が歓声を上げる。 和議の後、約束通り時間を作った望美は、ヒノエに連れられ船岡山にやってきた。

「お前が守った京の町だよ」
「私だけじゃないよ。将臣くん、譲くん、敦盛さん、先生……それにヒノエくんが力を貸してくれたから」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいね」

微笑む望美の手をとると、翡翠の瞳を覗き込む。

「お前が望んでいた源氏と平家の和議はなった。これでお前の平家の神子としての役目は終わったね」
「そうだね……」

迷いから一度は滅亡させてしまった平家。 彼らを今度こそ救ってみせる……そう誓い時空を遡った日々が今日、終わったのだ。

「だからもう一度言うよ。――望美、俺の女になりなよ。一緒に熊野に行こうぜ。おっと、帰るなんて言うなよ? 海賊は一度狙った宝は見逃さないんだぜ」

冗談めかして言うヒノエを、望美は微笑み振り返る。

「おとなしくさらわれると思う?」
「いいや。だけど抵抗してもさらってくよ。俺はこうと決めたら逃さない主義なんだ。あきらめなよ」

そうして抱き寄せると、頬を包んで、唇が触れそうなほど顔を傾けた。
ここで払われたなら、受け入れられるまで口説けばいい。 その手間を無駄だとは思わないし、そうしても欲しいと思う女なのだから。

「ね――俺のことが好きだろ? 望美」

頷きなよ? ねえ、望美?
想いを瞳に宿し告げれば、こぼれる苦笑。

「もう、ヒノエくんはいつもそうなんだから」
「そりゃもちろん、俺はいつもお前のことが好きだからね」

口の端をつりあげると、頬がうっすら赤らんで。ゆっくりと閉じた瞼に、了承の意を汲んで柔らかな唇に口づける。

「――連れてって。熊野に」
「ああ、もちろん。お前が来るのをみんな待ちわびてる。綺麗で強くて、最高な姫君のお前を」
「きゃっ!」

望美を抱き上げると、もう一度、満面の笑みで口づけた。

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