今は亡き主の部屋に置かれた三種の神器に異変が生じたのは、清盛の死から一月ほどが過ぎた頃だった。
カタカタと揺れたかと思った瞬間、眩い光を放ち、一瞬ののちにそこには一人の少年が佇んでいた。
「我は……蘇った」
幼さゆえの高い声は、しかしその声音と裏腹な落ち着きを宿していて。クックッと楽しげな嘲笑が無人だった部屋に響き渡った。
* *
強張った表情で付き従うことを求める経正に、将臣と望美は何事かと驚きながらその後に従った。
そうして通された部屋には、当然のように上座に座る紅の髪の少年。
「よお来たな、将臣、望美」
「……誰だ、お前」
「我が何者かわからぬのか? ああ……この姿に戸惑うておるのか。これは我が十を過ぎたばかりの歳の頃の姿。我は新たな姿を得てこの世に舞い戻ったのだ!」
甲高い笑い声を上げる少年に、経正が二人に真実を告げる。
「将臣殿、望美殿。そこにおられるのは清盛伯父上です」
「清盛……?」
「おいおい、何の冗談だよ」
「伯父上は死反の力でこの世に舞い戻られたのです」
「………!!」
経正の言葉に、将臣と望美は信じられない思いで目の前の少年を見た。
「怨霊……なのか?」
「ふふ……そうだ。我は生者にあらず。神器の死反の力で蘇った怨霊だ」
笑いながら同意を示した清盛に、望美はショックで言葉を失う。
この世界に降り立ち、右も左も分からなかった望美と将臣に手を差し伸べてくれた清盛。
自分が死した後も、一門の者に二人のことを託していった情深きその人だった。
「どう……して?」
「無論、一門の繁栄のためだ」
こともなげに言って、清盛は楽しげに杯を傾ける。
「弁慶に呪詛を返された時には苦汁を飲まされたが、我は再び甦った! 後白河にも源氏にも、京の都は渡さぬぞ!」
彼の覇気に呼応するように溢れる邪気に、望美がぐらりと眩暈を起こす。
「望美!」
「こんなの……間違ってるよ」
苦しげな望美の呟きに、清盛がぴくりと眉を上げた。
「お前ごとき小娘には、我の思いなどわかるまい」
「…………」
沈黙する望美に、清盛は視線をそらし酒を口に運ぶ。
「これからも我が一門が世に栄えるのだ! 源氏などではなく、この平家がな」
楽しげに口元をゆがめる清盛を、望美と将臣は言葉なく見つめていた。
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