平家の神子

36、道しるべ

時空を遡ってからずっと、望美はどうやって運命を変えられるか考えていた。

(このまま進んでも、きっとまた同じ運命をたどってしまう……。どこかで変えなきゃいけない)

だけどどこで、何をすれば変えられるのか?
そもそも運命など変えることができるのか?
答えが見つからない問いが頭の中を駆け巡る。
と、突然金の影が現れた。
それは望美に剣を教えてくれたリズヴァーンだった。

「先生!」
「お前は、川の流れを止めることができるか?」
「えっ?」

驚く望美に、リズヴァーンは静かに続ける。

「水は流れる。くぼみに向って、下に向かい流れ落ちる。仮に、下流を堰きとめたとて水は堰を押し流し、流れていく。流れを自分の意志で変え、歪みを生む覚悟があるのなら……一つ一つ、流いずる元を変えていくことだ」
「一つ、一つ、変えていく……」
(時空を超えて、一つ一つ運命を変えていけば…大きな流れも、いつか変わる)

平家が生き延びる運命も掴める――。

「はい、先生。私、まだ、全部をちゃんとわかってはいないけど。私は流れを変えます。先生が言ったように、私――」
(そのために時空を遡ったのだから――)

頷くと、リズヴァーンが柔らかく微笑む。

「先生、力を借してもらえますか?」
「お前が望むのならば。――時が至った時、再びお前の元を訪れよう」

大きな掌に撫でられて、望美の顔に笑顔が浮かぶ。

「一つ、一つ、変えていく」

そうすることで平家が生き残る未来を作れるのならば。

「神子。運命の中には決して変えられぬものも存在する」
「決して変えられない?」
「うむ。行く筋を違えようと、抗えぬ運命というものが存在する」
「抗えぬ運命――」

脳裏に浮かぶ、平家滅亡の日。

「先生、私どうしても――っ!」
「それでもいくのだろう?」

全てを見通すような青の瞳に、決意を宿して頷く。
運命を変える。
それが容易なことだとは思わない。
それでも、どうしてもこの想いは譲れないから。

「お前はただ信じたいものを信じ、行いたいことを行いなさい。それがお前の道を拓く。お前は何者でもなく、そして世界のすべてだ」

かつて聞いたことのある言葉。
まるで占者のようなリズヴァーンの言葉はやっぱりわからない。
だけど。

「はい。私は私が信じる道を進みます。そして切り拓いてみせます」

この日から、運命を変える望美の孤独な戦いは始まったのだった。

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