平家の神子

26、剣と師と

「この辺りから先に通れないんです」

奥まった道の手前で立ち止まった望美に、景時はふむふむと頷いた。
ようやく帰ってきた景時に同行してもらい、望美は再び鞍馬山に来ていた。

「うんうん、結構手ごわい感じのやつだね」
「兄上、どう? 結界破れますか?」
「お兄ちゃんに任せときなさい。望美ちゃん、危ないからちょっとだけ下がっててね」

言うや銃を構えた景時に、望美と将臣は不思議そうにその様子を見守る。

「銃?」
「景時のは陰陽術を発動するためのものなんですよ」

望美の疑問に弁慶が微笑みながら答える。
呪を唱えるとともに銃から発動された術に、望美達は目を瞠った。
目に見えない壁が崩壊した音がして、景時がにこやかに振り返った。

「はい、これで大丈夫。通れるよ」
「ありがとうございます、景時さん」
「あはは、このくらいなら楽勝楽勝! 任せといてよ」

景時に礼を述べ、鞍馬山の奥へと足を進める。
しかし進んだ先も、やはり人の気配はなかった。

「リズヴァーンさんはいないのかしら?」
「こんな人里離れた所に住んでる人なんだよね。ひょっとしたら人嫌いだったりするのかな~」
「もし人嫌いなら……会ってくれるとは限らないですよね」

今度こそ会えると思っていただけに、思わぬ落とし穴に望美が顔を曇らせる。

「出かけてるだけかもしれないぜ?」
「そうですね。もう少し、待ってみますか? なんだったら、俺が待ってますよ。会えたら京邸に知らせに行きますから」
「ダメだよ! 譲くんは怪我をしてるんだから」
「みんなで探しましょう。でも、用心はした方がいいと思うわ。天狗だなんて言われている良く分からない人なんですもの」
「心配はいりません。九郎の剣の師匠ですよ」
「牛若丸に武芸を授けた天狗……ですか」

無条件に信用しているような弁慶の様子に、譲が困惑気に眼鏡を直す。

「違う世界だから仕方ないんでしょうが……俺の常識とは違っていて正直、俺には判断がつきません。どんな人なのか」
「まあ、朔や譲くんの不安もわかるよ~。俺も会ったことない人だしね」

正体不明のリズヴァーンに、朔に続いて譲や景時も不安を吐露する。
だけど、望美は以前出会ったリズヴァーンを思い出し、ふるふると首を振った。

「私は悪い人じゃないと思う」
「望美?」
「それにここまで来たんだもの。私はあの人に会いたいよ」

望美が言い切った瞬間、唐突にその人は現れた。

「――お前は私を望むのか?」
「はい! 私に力を貸して下さい」
「お前の望むままに、神子。八葉はそのために在る」
「ありがとうございます!」

すべてを理解しているように望美を受け入れるリズヴァーンにほっとすると、彼に花断ちを改めて教わった望美は九郎に認められ、正式に源氏と行動を共にする事になった。
これによって、望美の運命は大きく動き始めるのだった。

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