堕ちゆく華【R15】

光ほた


この小説は、罪の華END後設定の光秀×ほたるです。 罪の華のネタバレを含みますので、未PLAYの方はご注意ください。
また、設定上ほの暗さと切なさがつきまといます。



帯を解かれ、衣が逃げる。この方はどうして自分に触れるのだろう?
裏切り、安土に害を為した自分に。

(ああ……光秀殿は誰も信じないから……)

それはきっと、閨を共にする女も同じなのだろう。誰でも変わらないなら傍にいる自分に触れる方が面倒が省ける。ただきっと、それだけなのだ。

「おやおや……また考えに耽ってるの? 君も存外しぶといねえ」
「………………」
「君は何も考えずにただ私に従えばいい……そう教えたはずだよ?」
「……申し訳ありません」

光秀に償うにはただ心を殺して彼の命に従うのだと、あの日そう決めたはず。なのになぜ、自分はいまだにこのように惑うのか。どこまでも弱い心が情けない。

「まあ、今だけは心を殺さない君の方が楽しめるかな? 人形にも飽きてきたからね」

滑る手の感触に、快楽に染まる肌。
心をいかに殺そうとも、身体は知らず彼の手管を覚え、打ち震える。 普段はそこに感情を乗せずにいた。乗せてしまったら心が壊れてしまうから。 殺そう――再び心を閉ざそうとした瞬間、顎を掴まれ、彼の唇が重ねられた。

「…………っ」
「駄目だよ。今宵は心を殺すことは許さない。……ねえ? 君は本当はどんなふうに囀るの?」

絶対服従の意を込め、囁かれる声はどこまでも甘く……ほたるを縛る。

「光秀ど……、ん…っ」
「私が望まない言葉を紡ごうとする唇は封じなきゃね」
「……ふ……ん……っ」

執拗に繰り返される口づけは、ほたるの意志など解さずに、ただ無情に身を熱くして、光秀によって暴かれた華が開いていく。

「君は感じやすいね。ほら、ここはもうこんなに蕩けてる……」
「……っ」
「私が欲しい? なら、ねだってごらん。主に施されてばかりじゃなく、たまには君から欲するのも興だろう?」

くちゅり、と下肢を撫でられ打ち震える身体に、光秀はしかし素直には与えず、ほたるに自ら欲するように要求する。 普段はただ光秀にされるがまま、その身を開かれ、貫かれた。けれども今日は、ほたるの意志で彼を求めろと、そういうのだ。

「…………っ」
「恥ずかしい? ふふ、その姿も可愛いけれど、そのままずっといるのは君も辛いはずだよ……?」

戯れに胸の頂を撫でられ小さく声を上げると微笑まれて、ほたるは絶望に似た思いを抱いた。 ほたるから求めるなど恥ずかしくて死にそうだった。けれどもこれは主の要求。従わないわけにはいかないのだ。

「…………っ」

要求に従おうとして、けれどもなんといえばいいのかわからない。ほたるは色事に疎く、こんな時に何と言って相手を誘えばいいのかわからなかった。

「あ、あの……光秀殿……」
「私が教えるのはなしだよ。それじゃ君が求めたことにはならないからね」

無碍なく却下されて、いよいよほたるは追いつめられる。
光秀が欲しい。そう、ほたるは思っていた。 正確には彼の心の内を知りたい――そう望んでいた。
その機会を永遠に失わせたのは自分。 惑う心を暴かれ、術をかけられ、彼の信頼を失った。 元より信頼などしていなかったと、彼はそういったが、信じてみようか……そんな思いが欠片でもあったとしたら、それを壊したのはほたるだった。 望んだのは彼からの信頼。けれどももう、それが手に入ることはない。

「……君? ―――っ」

驚きの色を乗せた光秀の声に視線を向けると、ぽつりと、こぼれ落ちた雫。 それが自分の流す涙なのだと気づいた時には、いくつもの雫が彼に降り注ぐ。 何を嘆くというのか。もう自分には泣くことさえ許されないというのに。 すべては自分が招いたこと。弱き心が全てを失わせたのだから。

「……君は私を惑わせるのが得意だね。まさかこんな不意打ちをくらわされるとはね」
「……すみません……っ」

情けなさに俯き、離れようとした身体を引き寄せられて、その腕の中に囲われる。

「光秀殿?」
「……私に触れられるのが泣くほど嫌だとは思わなかったよ。確かに君はこういうことには不慣れだったものね」
「ちが……っ」
「心を殺せば身体を差し出せても、心を伴えばそれができない。君の瞳は正直だよ……憎いぐらいね」
「…………っ」

暗い響きに身を震わせるも、囲う腕は外れることなく、ほたるはただ静かに涙をこぼす。
彼との関係を歪ませたのは、ほたるの弱い心のせい。 ほたるがもっと光秀の人となりを知りたいと、そう望めば、きっとこうはならなかった。 叶うならばこの身をもって罪を償いたいが、自害を光秀は許さない。 ただ駒となり、彼の意を汲み働く。それがほたるにできる唯一のこと。
だからこのように涙を流すことは許されない。もとより自分の身を嘆くなどそんな権利さえないのだから。そう改めて自身に言い聞かせると、ほたるは深く自我を沈める。 それこそが光秀の望まざる行為なのだと気づかずに。
どこまでもすれ違い、互いを傷つけ、果てゆく――罪の華。
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