お熱いうちに召し上がれ

百ほた10

ほたるの作った鍋を美味しく食べて後は締め、というところで眉間にしわを寄せた彼女が百地を見る。
「師匠、締めはうどんと雑炊どちらがよいですか?」
「……どちらでも構わない。お前の好きな方にすればいい」
「いえ、今日は師匠の好みに合わせたいのです」
幼少の頃ならすぐに自分の要望を答えたというのに、目上を立てることを覚えたのか首を振るほたるに、しかしあつもので十分満足していた百地にはどちらでも構わなかった。
それに師匠としては弟子の成長に喜ぶところだろうが、長い付き合いで彼女が本当はどう思っているのかわかってしまうのだから、要望など告げる気にはならなかった。

「問うということはお前にはどちらか希望するものがあるのだろう。俺はどちらでも構わん」
「ですが……」
「構わないと言っている」

言い重ねれば黙り込んだほたるが、うどんを取り出し鍋に入れる。

「……今日はうどんの気分でした」
「そうか」
「本当に師匠はどちらでもよろしいんですか?」
「ああ」

上目づかいに窺うのは幼い頃から変わらず、頬が自然と緩むのを意識して抑えると椀を差し出した。
あつものが好物である百地に、ほたるはこれまで様々な鍋を調べては作ってくれたが、やはり昔から食べているこの味が一番好みであり、それを察したのだろう以降は具材こそ変われどこの味で作るようになった。
だから締めは彼女の望みで構わなく、百地にこだわりはなかった。
もう少しお待ちください、と鍋の様子を見つつ時折味見をして調整する姿はまるで幼な妻のようで、浮かんだ考えに眉間にしわを寄せる。
偽りの身分とはいえまだ彼女は学生の身であり、自分は教師。
想いを交わし合った仲とはいえ、そのような関係に進むには早すぎた。

「師匠? やはり雑炊の方が良かったですか?」
「どちらでも構わないといっただろう」
「ですが……」
「くどい。まだ出来ないのか?」
「どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」
「……お前は俺をいくつだと思っているんだ」
「出来たてに注意が必要なのは幼子も成人男性も変わりません」

さらりと返され眉を寄せると、湯気を立てる椀を軽く吹いてからうどんをすする。
いつかこうして共に過ごすことが当たり前になる日々がくるのだろうかと、浮かんだ考えを表情の奥に隠すと嬉しそうにうどんを食べる姿に笑みをこぼした。

10周年企画
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