壊れた世界の約束

央撫19

撫子が央の手伝いをするようになって数日。
決して治安がいいとは言えないために、常に外に出るときは央と共に動いていた。
その事を申し訳なく思っていたが、央があまりにも嬉しそうにしているから、つい問うてしまう。

「あの、本当に邪魔じゃないかしら」
「全然大丈夫。むしろ羨ましがられてるぐらいだよ」
「羨まし……?」
「それに君も自分の目でこの世界を確かめるのにもいいと思うし」
「それは、助かってるわ」

確かに〝彼女〟の記憶である程度はわかっていたが、やはり実際に歩き目にするのとでは違うから、連れ出してもらえるのはありがたかった。

「後は、これが頼まれていた九楼財閥の消息な」
「え?」
「すぐにヒットするなんてさすがだね」
「元々農業分野でめざましい功績をあげてたとかで、荒廃した土地の開墾なんかに手を貸してたらしくてな。政府も何度か交渉したりしてたらしいぞ」

央の仲間の一人から語られる家族の話に驚いていると、同じく頷いていた央がこちらを見る。

「実は撫子ちゃんの家族を探せないかなって情報を求めてたんだ。今は少し離れた所にいるらしくて、ちょっと時間がかかっちゃった」
「お父様もお母様も生きているの?」
「うん。九楼会長は農業分野の知識を買われて、政府も接触していたらしいよ」

父の仕事については詳しく知らなかったのだが、無事だと知って安堵する。

「もしかしたらあの花を咲かせたのも、お父さんの知識あってのことだったのかもしれないね」

思い出すのは、荒れた土地の一角に作られた花畑。
農作地には向かなかったらしいその場所は、何故か一面の花を咲かせていて、こんな世界でも花が咲くことは出来るのだと心強くなったものだった。

「あれをお父様がしたかもしれないなんて……」

いつも仕事ばかりで、顔を合わせれば小言とつい反発を覚えていたが、父がこんな功績をあげる人だったのだと胸が熱くなる。

「すぐには難しいかもしれないけど、君のお父さん達にもきっと会えるよ」
「ええ……ありがとう」

復興に忙しいのにこうして撫子を気遣ってくれる央の優しさが嬉しく、胸元で小さく指を握る。
また一つ灯された希望に、本当に央は彼の組織の名のようだと思う。
トワイライトーー薄明かりを意味するその言葉は、先の見えない未来に光を灯す彼そのものだった。
〝私〟の記憶からこの世界の荒廃も、それがどうして引き起こされたかもわかってはいたが、改めてこの世界を見たときはとても苦しかった。
〝二度目〟であっても現実を目の当たりにして、これを引き起こした原因が自分だと思うと眩暈で足元がぐらついた。
すべてを破壊してしまった爆発。
それ自体は偶発的なものだったとしても、原因は事故に遭った撫子を目覚めさせようとした鷹斗の実験なのだから。
何故と嘆いても変わらない以上、少しでも早く復興をと思うも、まるで戦争でもあったかのようにすべてが壊れた世界を目にしては、一歩が千里の道のりだ。
だからこそこうして現実を見てしまえばどうしたって罪悪感を覚えずにはいられず、身を粉にして働こうと思わずにはいられなかった。
自分に何が出来るのかわからないが、それでも少しでも復興の手伝いをと、そう急き立てられて動かずにはいられなかった。

「私も、この世界が元に戻るように頑張るわ」
「うん、一緒に頑張ろう」

今はまだ何をすればいいのかわからないけれども、たとえ薄明かりだとしても照らされた道を歩いていきたいと、差し出された手を取る。
そんな撫子を、じっと央が見つめていたことには気がつかなかった。

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20210213
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