愛というには我侭で、恋と呼ぶよりきっと

契市1

「……ごめん」

突然の謝罪に驚き、目を開けて、彼の視線の先を知って市香はふるりと首を振る。

「水着を着る機会があるわけでもないので、気にならないですよ」
「……うん。でも、ごめんね」

白い肌に残る引きつった傷跡。 それは御国の弾丸から身を挺して岡崎を守った証。
一命をとりとめたものの、長期入院を余儀なくされるほど、市香の負った怪我は酷いものだった。

心臓が止まるかと思ったあの瞬間。
自分を庇って誰かが……大切なものが死ぬなんて、もう絶対に嫌だと思っていたのに。
守ると誓いながら、逆に庇われた不甲斐ない自分が許せなくて怒りに震えた。

「謝らないでください。岡崎さんが謝るなら、私も謝らなくちゃいけなくなります」

岡崎が最も嫌がることを、あの時はどうしようもなかったとはいえしてしまった。
あの出来事が過去の傷と重なり、彼をまた深く傷つけてしまったことに、市香もまた痛みを抱いていた。

「……うん」

市香のそうした思いを理解しているのだろう、岡崎は泣きそうな顔でそれでも笑ってくれた。
だから、そんな彼の痛みを癒そうと柔らかく抱き寄せると、甘えるように身をすり寄せられる。

「この傷を見るのは岡崎さんだけです」
「……うん。そうだね。君は俺だけのものだから」

彼を傷つけてしまうものだとしても、だからこそ今こうして彼と共に在れるのだという現実を溢れる想いで包み込んで伝えれば、確かに受け止められて、そっと肌にキスが降る。
この傷は市香が岡崎を想ってくれる証。
その想いを与えられるような存在であるのか自信はないが、ただ一つわかっているのは、市香を決して離せないということ。

「好きだよ」

真っ白なキャンバスにキスの雨を降らせて、赤い印を花びらのように散らせながら告げると、身を震わせながら私もです、と告げてくれる優しい恋人を抱きしめる。
自分のものだと知らしめるように、執拗に彼女に刻む様は愛などと言えるものではないのかもしれない。
それでも、どうしようもなく彼女を欲しているのは確かであり、彼女なくして生きられないのだから。

(……ごめんね)

心の中で呟いて、あたたかい彼女を抱き寄せた。

20170416
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