膝枕

景市13

「君って睫毛長いんだね」とか、「あ、ここにほくろがある」とか。
突然膝枕をしたいと言い出したかと思えば、眠ることなく下からずっと見つめられて、市香は顔を赤らめるとフルフルと肩を震わせた。

「もう、寝ないなら起きてください」
「いやだよ。だって仲の良い恋人同士は膝枕をするんでしょ? 榎本君の本に書いてあったよ」
「それは、偏った知識です……!」
「え、違うの? なら膝枕は誰とするものなの?」
「それ、は……っ」

容赦ない質問の嵐にむぐっと口をつぐむ。
けれども、そんなことで白石さんは諦めてくれないから、何とか誤魔化そうと言葉を探す。

「その、親しい人とか……」
「親しい人に恋人は含まれないの? どれぐらい付き合えば親しい人扱いになるの?」
「~~含まれ、ます」

なら問題ないよね、と満足そうに笑うと、再び下から視線が浴びせられる。

「っ、白石さんは楽しいんですか?」
「うん。恥ずかしがる君はずっと百面相みたいだし」
「もう! やっぱり起きて……っ」
「それに温かくてすごく……心地いい」

柔らかく細められた眼差しに揶揄する色は全くなく、それが彼の本心だとわかってさらに頬の熱が上がる。
アドニスの構成員として必要な知識は詰め込んだが、雑学や特に感情などは不要なものとされていたため、ふとこぼれる思いの発露に市香はいつも振り回されていた。
自分の傍にいることで心地好さを感じてくれるのは嬉しいが、この格好でそれを言われるのはかなり恥ずかしい。

「市香ちゃん?」
「ずるいです……そんなこと言われたら嫌だって言えなくなっちゃうじゃないですか」
「嫌なら退くよ?」
「いいです、もう」

下から見上げてくる白石さんに小さくため息をつくと、そっと柔らかな髪を撫でる。
そう言えば昔は香月にもこうしてたよね、と思い返していると、ふと白石さんが沈黙してることに気がついた。

「白石さん?」
「……ちょっと今、見ないで。何かすごく、恥ずかしい……」

口元を片手で覆って顔をそらす様子に、え、ここで照れるの?と驚くも、こうしたところも白石さんの一面だと知っているから、小さく微笑むとゆっくり髪を撫でる。

「……何で君は平気なの?」
「うーん、昔、香月にもしていたからですかね?」
「そう……」

少し曇った声に下を見ると腕が伸びて、ぐっと彼の方へ引き寄せられ前屈みになる。
ーーちゅ。

「!」
「これは弟くんにはしたことないでしょ?」

唇に残るぬくもりに頬を赤らめるも、膝の上ですごく幸せそうに笑うから文句を言えなくて。
当たり前です、と目をそらした。

12周年2021
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