透きとおったエゴイズム

梓月9

「わ~コタツ!」
部屋の中で見つけた懐かしい物に、月子は顔を輝かせた。

「へえ、神楽坂先輩ってこういうのが好きなんですね。意外です」

「すぐ寝れるから……」

「え? もしかして神楽坂くん、コタツで寝てるの?」

こくんと頷く四季に、月子と梓が驚く。

「ぬははは~ぬくいのだ~」
「こら、翼。寝っ転がるな。先輩に足が当たるだろ?」
「ぬ? 書記の足、ぬくぬくなのだ~」
「きゃっ! 翼君、ちょっ……」

寝転んだ翼の足が、ちょうど反対側に座っていた月子に触れて慌てると――。

「つ~ば~さ~」
「ぬあっ! パッツンが怒った~! 書記助けて~」
「あはははは……」

梓に首根っこを掴まれコタツから引きずり出される翼を、月子は苦笑しながら見つめた。

「でも翼君が言うように、コタツって暖かくていいよね」

「先輩が欲しいなら、うちにも買いましょうか?」

「でも置く場所ないんじゃないかな?」

洋室にぽつんと置かれたコタツを想像して、月子はふるりと首を振った。

「やっぱりコタツには神楽坂くんみたいに和室の方があうよね」
「ん……」
めったに笑うことのない四季が、月子に微笑み同意する。―――と。

「………!」
「ぬ? どうしたんだ? 書記の顔、まっかっかだぞ?」
「本当だ。どうかしたんですか?」

何でもないふうに翼に同意する梓に、月子は恥ずかしそうに視線を落とした。
コタツの中できゅっと月子の手を握る梓。
しっかりと握られた手は緩むことがなく、必死に目線で梓に訴えるが、返ってくるのは微笑みだけだった。

「ぬぬ? 書記がゆでだこなのだ」
「熱、ある……?」
「う、ううん! 大丈夫だから!」

心配そうに覗きこむ翼と四季に、月子は繋がれてない方の手を振ると、心の中で梓君のバカと呟いた。

 * *

四季の家からの帰り道。 まだ顔の熱は冷めず、月子は恨めしげに梓を睨んだ。

「梓君のばか」
「僕を妬かせた先輩が悪いんですよ」
「え?」

思いがけない返答に驚くと、目に映ったのは拗ねた顔。
だけど梓が拗ねる理由が分からず、月子はぱちぱちと瞳を瞬いた。

「あなたはぼくのお嫁さんなんですから、僕以外には触らせないでくださいね……って、前に言いましたよね?」

「あ、あれは……」

「ヤキモチを妬かせたので、帰ったらお仕置きです」

そう言って肩を抱き寄せ、降り落ちた唇。
それだけで再び真っ赤に染まった顔に満足げに微笑むと、梓は車を発進させた。
Index Menu ←Back Next→