それはとても不思議な夢だった。
『お大事に、じゃねえ! どう考えてもお前のせいだろうが』
『別に気が向いただけだ』
『音楽をちゃんと聞いていますか? 私が奏者だったら、絶望して演奏を止めます』
言ってることは普段よく知る彼らのままなのに疑問符だらけ。
何で制服を着てるの?
何で部活動?
そもそも何であの世界に彼らがいるの?
見たことのない制服を着て、一緒に学校で部活動をしているという、あり得なすぎる状況に、すぐに「あ、これ夢だ」と納得した。
それでもやっぱり夢でも怒られるんだと苦笑しかない。
(まあ、私が水かけちゃったんだけど)
こんなところは現実の出来事に影響されたのだろうか?
(練習も付き合ってくれてるし)
あの時も舞を披露することになって、強制でみっちり練習させられたけど、忙しいはずなのに丁寧に何度も練習に付き合ってくれていた。
「もう皆来てるかな」
日直で少し遅れてしまった。
きっと仲謀は怒っているだろうと、舞踏部の部室に急ぎ駆けていくと扉へ手をかけた。
「ーーーーい」
ゆさゆさ、身体を揺さぶられて、花は伏せていた顔を上げた。
「あれ……仲謀? どうしたの、その格好。今日の練習は大会の衣装でやるんだっけ?」
「はあ? 何言ってるんだよ。寝ぼけてるのか?」
「へ?」
怪訝な顔で覗き込まれて、目をしばたくと、辺りの景色に急速に夢の気配が遠退いていく。
ここは仲謀の大切な呉。
私は不思議な本に吸い込まれて、この世界に来てーー仲謀のそばにいることを選んだ。
「大丈夫かよ。そんなに疲れたのか?」
「ううん、ちょっと寝ぼけただけだよ。もう夕飯?」
「いや、今日は早く終わったから、少し話でもするかと思ったんだが」
心配そうにこちらを見つめる瞳に、うーんと身体を一度伸ばすと、にこりと微笑んだ。
「ありがとう」
この世で一番幸せな夫婦。
そう誓ってくれたように、時に忙しさに苛立つ時もあるようだけど、ずっと気にかけて大切にしてくれた。
「なんだよ、急に」
「いつもありがとうって思ってる」
「そ、そうかよ」
「あのね、さっき不思議な夢を見たんだ」
夢の残滓を寄せ集めて、大切な人に聞かせる。
どんな世界だってきっと、花が好きになるのは仲謀だから。
#三国恋戦記・今日は何の日【お題ありがとう】