冷たい唇

桃芽28

桃介さんの唇はひんやりとしていて、触れられた瞬間、反射的に身が震えた。
手も同様に冷たいから、もしかしたら冷え性なのかもしれないと、そんなことを考えていたら、心ここにあらずなのに気づいたのだろう、淡い瞳が向けられた。

「……何を考えていたんですか?」
「あの、身体を温める食材ってなんだったかなって」
「身体を温める食材、ですか?」
「はい」

予想外の返答だったのか、丸く見開かれた目に頷くと、自然と彼の上着のポケットに目が向く。
常時そこには彼曰く、『非常に効率の良い』チョコレエトが入っていて、まるでポップコーンのように食べる様を何度と見てきた。
とにかく忙しい彼は、栄養バランスのよい食事より効率を重視しているので、冷え性もそこから来ているような気がするのだ。

「生姜をお粥にいれたり、スープに使うのもいいかもしれないですよね」
「どうして身体を温める食材を?」

問われ、なんと答えればいいか逡巡するも、結局はありのまま伝える。

「桃介さんは手が冷たい方ですよね。もしかしたら足先も冷えやすかったりしませんか? それはたぶん、冷え性だからだと思うんです」
「だから身体を温める食材、ですか」
「はい。今度料理長にオススメの料理を聞いてみますね」

そう答えればわずかな沈黙が流れて、浮かんだ笑みに鼓動が跳ね上がる。

「問題ありませんよ。あなたが傍にいてくれれば解決しますから」
「え?」

それはどういうことかと問おうとして、再び重ねられた唇に言葉を奪われる。
今度はすぐに離れることはなく、上唇を柔く食まれ、ペロリと舐められて肩が震えた。

「こうして触れていればあなたの体温が私に移るでしょう?」

甘く痺れていく意識の向こうで、やかな笑みで囁かれて、その言葉を違えず繰り返されるキスに互いの体温が混じり合うのを感じた。

20200808
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