猫の日

ラス為3

「はい、プライド」

にこやかに贈り物を差し出され、ありがとうとお礼を言いながら、今日は何かあったかしらと考える。
誕生日では当然ない。
ならば土産だろうか?と思いを巡らせていると、開けてみてほしいと乞われ開封して。
中から出てきたものに目を丸くした。

「レオン、これは……?」
「前にプライドとティアラがドレスを選んだ店の新作なんだ。以前、ハロウィンを楽しんだと聞いていたからどうかと思って」
「可愛いですね!」

ニコニコと笑顔のレオンに、横から覗きこんだティアラが目を輝かせるが、どう反応していいか困ってしまう。
箱の中身は以前、レオンから贈られたうさ耳帽子の猫バージョン。

「市井では今日を猫の日として、猫を愛でるらしくて、それにかこつけて関連商品も沢山売られていてね。それもすごく人気なんだ」
「すっごく可愛いですものね! ね、お姉様!」
「え、ええ。そうね」

確かに前世でも語呂合わせからこの日は猫の日として有名だったが、まさかこの世界でもそうだとは思わなかった。
まあ、猫を愛でて大切にする日ならばいいことだとも思うし、グッズだって可愛くてティアラにはお似合いだとも思うが、箱の中身は白と黒の二種類が入っていた。
当然白がティアラで、そして黒は……私なのだろうか。

「早速かぶってみませんか?」
「え! こ、ここで?」
「出来ればつけて見せてもらえると僕も嬉しいよ」

そう贈り主であるレオンに乞われてしまえば否とも言えず、しかし以前のうさ耳帽子を被ったときの近衛騎士の反応を思うと躊躇ってしまう。
ちらりと後ろを見ると、思い出したのかカラム隊長の顔がやはり赤く、その様子をアーサーが不思議そうに見つめていた。

やっぱり第一王女が子どもっぽいと思うわよね。
それに可愛いティアラならまだしも、やはり私がつけるのは見るに耐えないのだろう。

「あの、これは私には可愛すぎると思うの。だから良かったらティアラが両方使っ……」
「お姉様とお揃いで嬉しいです!」

断りの言葉をにこやかに遮られ、しかもキラキラ笑顔でお揃いを喜ばれたら嫌とは言えない。
被り物なので別室で着替えるほどでもなく、追い込まれて覚悟を決めると黒猫の方を手に取った。

うう、やっぱりつけなきゃダメかなぁ。

絶対似合わないし、遊園地で無駄にテンション上がってやらかしましたみたいにしかならないし、アーサーにまでカラム隊長みたいに呆れられたり顔をそらされたら恥ずかしすぎて今すぐ逃げたい。
でもせっかくのレオンの好意を無にしてしまうし、何よりティアラとのお揃いという強力な誘惑に抗えず、おずおずと頭にのせると上目遣いに見た。

「お姉様すっごく可愛いです!」
「あ、ありがとう。ティアラもとても可愛いわ」

やはり猫耳帽子は可愛いティアラにはお似合いだった。抱き締めたくなるぐらい可愛い。
私なんかにも気遣ってくれるティアラに微笑み返すと、チラリと視線を前に向けて、顔を真っ赤に染めて固まっているレオンに驚く。

「レオン!? どうしたの、まさか熱が……」
「いや……」

慌てて腰を浮かせるも、片手で制され、もう片方の手で口元を隠し顔を背けられて、そんなにも似合わなかったのかと申し訳なくなる。
せっかく見立ててくれたのに、この凶悪顔では残念にしかならなかったのだろう。
わかってはいたけれどやはりへこむ。
そういえばと後ろを見れば、カラム隊長同様にアーサーも顔を真っ赤に染めて口を腕で覆っていて、だからやめようとしたのにと恥ずかしさにいたたまれなくなった。
ソッと箱に戻すと、ティアラがもう外してしまうんですか?と聞いてきたけど、これ以上皆の目を汚すのもそらされるのもツラいので、素直に恥ずかしいからと言い訳する。

「ごめ……あまりにも可愛くて。もう外すのかい?」

立ち直ったレオンが謝罪しながら誉めてくれたけど、逆に似合わなくてごめんなさいと謝りたくなった。
やはりあれはぬいぐるみとして愛でようとプライドが心に誓ったこの一件は、夜の近衛騎士の飲み会で報告され、揃った面々が顔を真っ赤に染めたのだった。

20210222
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