不測の事態?

アサプラ2

目を開けると見慣れぬ天井が目に入って、「俺……どうしたんだ?」と定かでない記憶を呼び戻そうとしたところで、ガタリと椅子の音がした。

「! アーサー、気がついたのね」
「プライド、様?」
「熱は?」

心配そうに眉を下げて、額に手を伸ばしたプライドに、ぼんっ!と熱が跳ね上がる。

「ああ…やっぱり風邪をひいてしまったのね」と、泣きそうな表情のプライドに違うと返事をしかけて、先程のことを一気に思い出して身体が固まった。

「俺……っ、風呂……、なん……っ!?」
「ええ、浴室で気を失ったのよ。突然だったから慌てたわ。やっぱり熱があったのよね」

ごめんなさいと、肩を落とすプライドに、けれども首を振ることさえ出来ない。
何故なら意識がなくなる寸前、ものすごく柔らかな感触に腕が触れたことを思い出したからだ。
傷一つない肌は透き通るように白く、いつもは髪で隠れている首筋が露になり、そこに数本後れ毛がこぼれ落ちている様はとてつもなくーー艶かしかった!
花のようないい香りがして、湯で温められた肌がほんのり赤みを帯びていて、そして柔らかな感触を直に感じてしまって。それら全てを自覚した途端、気を失ってしまった。
情けねえ~~~っ! 何やってんだよ俺!
胸中で激しく頭を抱えて自分を罵る。
プライド様の目の前で気を失うとか、格好悪すぎだろっ!
自分は彼女の王配で、いずれは子どももーーと考えて、それ以上想像するのが不可能になる。
ふしゅふしゅ……と湯立った頭はこれ以上の想像を拒否するかのように思考が乱れて、急上昇した体温に目まで眩んできた。

「アーサー! 誰か、医者を……っ」

アーサーの著しい体調の悪化に、慌てて立ち上がり、外の衛兵に声をかけようとしたプライドの腕を掴んで、ハッと自分を見る紫の瞳を捉えられないまま、「……大丈夫、です」と何とか伝える。

「全然大丈夫じゃないじゃない!」
「いや……っ、その……これは、ただ、恥ずかしい……だけ……なんで」
「恥ずかしい?」

ピタリと動きを止めたプライドに、あああぁ~と心の奥で叫びながら事実を伝えた。

「その、プライド、様と風呂……なんて、初めて……じゃないすか。だから、その……」
「……っ! え、え……そ、うね……」

アーサーの照れが伝染したように、プライドもボボボッと顔だけでなく全身が真っ赤に染まる。
泳ぐ目が同じく照れているのだと分かって、愛しさが膨らんで。
気づいたら抱き寄せていた。
ドクドクと、早鐘が重なりあう。
それはアーサーだけでなく、プライドの音でもあって、カチンと固まった彼女に、手を離せない。
互いに言葉を発せず、ただ無言で抱き合っていると、ノックの音に大きく肩が上下する。

「プライド様、新しい氷をお持ちしました」
「は、はい! 持ってきて下さい」

扉向こうからの声かけに、二人同時に身体を跳ねさせ離れると、プライドが火照った頬に手をやりながら入室を許可する。
互いに熱が収まるには、しばらくの時間を要した。

20201227
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