願い

ラス為5

昔はわからなかった。
私を見て顔を赤らめるのも隣にいるティアラに対してだと思っていたし、そうでないなら怒らせてしまったり緊張させてしまったのだと、そう思っていた。
だって私はこの世界のラスボス。
母上が健在だから女王にはなっていないけれども、前世の記憶を取り戻した時に思い出したキミヒカの記憶を予知だとは思わなかったから、それは絶対定められたものなんだと思っていた。

好かれるのはヒロインのティアラ。
極悪非道のラスボスなんかを好く人などいるわけがない。

それが絶対前提であると、そう思いこんでいたから、私に向けられる思いをそのまま受け止めることが出来なかった。

けれども防衛戦で傷ついた私を見て、皆が傷ついたのを知って。
私のことを大事に思ってくれる人がいること、そして私が自身を粗雑に扱うことでその人達を傷つけてしまうのだとわかった。

優しくしてくれるのはその人が優しいから。
敬ってくれるのは私が第一王女だから。
ただそうとしか受け止めてなかった。

けれども彼らが私に向けてくれるのはそうじゃなかった。
私だから優しくしてくれた。
私を思ってくれた。

それがわかった時に、あまりに情けなくて涙が出た。
今までどれだけの優しさを私は無碍にしてきたのだろう。
私のことを想ってくれたり、慕ってくれた人達の優しさに気付けないで、その人達が大事に思ってくれる私を、誰よりも私自身が粗雑に扱ってしまっていた。
そうして何度も傷つけて、苦しめていた。
自分のために人が傷つくことの苦しさを、カラム隊長を失いかけて初めて気づいたのだから。

怒ってくれた。
泣いてくれた。
悲しんでくれた。
苦しんでくれた。
それはすべて『私』を思ってくれてだった。

皆に幸せになって欲しくて、前世の記憶を予知として活用して、ゲーム設定を一つ一つ変えていった。
けれどもいつもその幸せの中に自分はいなかった。
必要がないと、きっとそう思っていた。

悲しませたくない。
笑って過ごして欲しい。
そのためには、私が私を大切にしなければいけないのだと、彼らの幸せに組み込まれていることが嬉しくて……悲しくて。
だってどうしたって私は皆を苦しめるから。
いつかあの極悪非道なラスボス女王プライドになるのだと、そうわかっていたから。
だから目覚めたくない。
たとえもう皆と共に在れなくても、皆を傷つけたくない。
このまま私の時間が終わって欲しい。
けれどもそれさえ叶わないのならせめてーーどうか最後はゲームみたいな幸福な結末をと、それだけを願った。
大好きで、一分一秒でも長く側にいたかった。

ステイル。
ティアラ。
アーサー。
アラン隊長。
カラム隊長。
エリック副隊長。
ヴァル。
セフェク。
ケメト。
レオン。
セドリック。
マリー、ロッテ、ジャック。
優しくて、あたたかくて、私を思ってくれた大好きな人達。

だからどうか、どうか幸福な結末を。
皆が幸せであるように。

20210627
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