アサ誕

アサプラ9

アーサーと知り合う前から私達姉弟妹の間では誕生日に互いに贈り物をしあっていたけど、そこに彼が加わってから十年が過ぎた。
私達から贈る物はやはり王族からというのでかなり緊張してしまうようで、特に最初の誕生日で恐縮させてしまってからは、彼が少しでも受け取りやすい物を、と気をつけるようにしていた。
だから、私が毎年あげているのは髪紐。
騎士を目指すと決めてから、彼は下ろしっぱなしだった髪を一つに結い上げるようになったから、これなら日常使いしてもらえるだろうと選んだものだった。
女性用とは違って華美さは追求出来ないから、質のよいシンプルな髪紐。
それを毎年嬉しそうに受け取り、翌日に新しい髪紐を使ってくれているのを知るのが嬉しくて、彼の誕生日の翌日は自然と顔がほころぶようになった。

けれども今年からは特別。
誕生日に髪紐を贈るのは変わらない。
けれどもその翌日に新しい髪紐で結い上げられた彼を見るのではなく、私は今初めて彼の髪を梳いていた。

「プライド様、やっぱりその……っ」
「アーサーの髪は綺麗ね。ずっと梳いてみたいって思っていたから、願いが叶って嬉しいわ」
「…………っ」

覗いた耳の赤さに彼が照れていることがわかって微笑む。
サラサラと指の隙間を流れる銀糸はとても美しく、いつまでも梳いていたくなるが彼も今日は忙しいので、いつもの高さで纏めると髪紐でぎゅっと結う。

「痛くないかしら?」
「大丈夫、です」

後ろから前に回り込んでこぼれ髪がないことを確認して、にっこりと微笑む。

「ありがとう、アーサー」

髪を結わせてくれたこと。
いつも髪紐を大切に使ってくれていること。
そしてーー私を受け入れてくれたこと。
それら全てを込めて御礼を告げると、蒼の瞳が射貫くようにまっすぐ見つめて、「はい」と微笑んでくれた。

婚約者候補から婚約者、そして王配。
お互い沢山悩んで、それでも手を伸ばして、その手を取って。
私とアーサーは夫婦になった。
彼はティアラの攻略対象だと知っていたのに、それでも婚約者候補に加えてしまっていたのはきっと無自覚に惹かれていたからだろう。
本当に私でいいのかと悩んだこともあったけど、彼は選んでくれた。
だからもう『私なんか』はやめにした。

「行きましょうか」

朝食の席へ移動するため差し伸べられた手を取って、ゆらりと揺れる銀糸に再び視線を向ける。
近衛で訪れた彼に新しい髪紐が使われてることを確認していた今までとは違い、隣を歩いていることがくすぐったくて笑みがこぼれた。

「プライド様?」
「幸せだなと思って」

あるはずのなかった未来をこうして彼と生きられることがこんなにも嬉しいのだと、そう伝えたらきっと悲しませてしまうから、胸の奥にしまって微笑む。
けれどもそんな私にアーサーは眉を寄せると繋いだ手をぎゅっと握って。

「俺も幸せです。これからもいっぱい幸せにするんで」

新たに重ねられた誓いに胸がいっぱいになって、頷き手を握り返した。

20210827
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