かき氷

ラス為4

この世界にも四季は存在しているが、前世過ごした日本のような暑さや寒さはそれ程でもない。
ないが、王族として常に足先まで隠れるドレスを身に纏うために、やはり夏は少しだけ暑いというのが正直なところだ。
なんせドレスにはコルセットが必須で、腰を綺麗に見せるためにそれはそれはギチッときつく締め付ける。
さらにスカートを膨らませるために金属の骨組みをつけるため、とにかく重いのだ。
幼少の頃からなので顔に出すことはないが、こんな時はやはり冷たいものが食べたいと、ふと懐かしい食べ物を思い出した。

「かき氷……」
「お姉様?」
「!!」

こぼれた呟きにハッとする。
不思議そうに見上げるティアラに、なんでもないのと返そうとして、それよりも前に問われてしまう。

「かき氷ってなんですか?」
「その、最近暑くなってきたでしょう? だから、砕いた氷に果実を搾ったものをかけたら美味しいかしらと思って……」
「とても美味しそうです!」

キラキラと瞳を輝かせるティアラに、傍らのステイルがメガネに手をかける。

「氷ですか……果実はともかく氷となると」
「……難しいわよね」

この世界には冷蔵庫がない。
必然氷は貴重なものだった。
けれどもーー。

「いえ、少量であれば可能かと」

そうーー特殊能力者を有するフリージアでは不可能ではなかった。
ただ人員には限りがあるので貴重なものではあったが他国ほどではなく、城内では主に食材の保管に使われていた。
それを少しだけ使うのはそれほど難しいことではない。
ただ食べるという発想がなかったため、ステイルや護衛のアーサーやエリック副隊長も不思議そうにこちらを見ていた。

「具体的にどのようなものか、聞かせていただけますか?」
「氷を出来るだけ細かく削って器に盛り、砂糖を加え煮詰めた果実を冷ましてかけたらどうかと思うのだけれど……」
「なるほど」

説明を聞いて考えるステイルに、ティアラの瞳の輝きが増す。
スイーツは女子の心を惹き付けてやまないのは、どの世界でも同じらしい。
しかしこれで「難しいからやめましょう」と言えなくなってしまった。
それでは料理長に厨房を借りる手配を、とサッサと予定を組み立てていくステイルに、「楽しみですね!」と可愛らしく微笑まれて手を取られれば頷くほかなく、必要な用具等を伝えて数日後、プライドは厨房に立っていた。
果実に砂糖を加えて煮込み、搾るのは事前に済ませてもらっていたので、氷を料理人達に削ってもらう。
自分でやろうと考えていたが、王女に万が一があってはと止められてしまったのだ。

「プライド様、こちらでよろしいでしょうか?」
「ええ。それにこれを……」

削られた氷を盛った器にシロップをかける。
別で切り分けた果実を飾れば、かき氷の出来上がりだ。

「綺麗ですね!」
「氷が溶けてしまうから、いただきましょう」

器も冷やしていたので即溶けてしまうこともないが、やはりシャリシャリと凍った感触は残したまま食べたいと、スプーンですくい口に運ぶ。
専用の削り機械がないため粗めだが、懐かしいかき氷に顔がほころぶ。
隣のティアラを覗くと、冷たさに驚いていたが、すぐに幸せそうに美味しいです!と微笑んでくれる。

「本当に……氷をこのように食べるなど考えたこともありませんでした」
「夏の贅沢ね」

常に氷を作れる環境が必要なことから、普及させるのは難しいだろう。
残念そうに眉を下げるティアラに、ふと後ろに立つアーサー達を振り返る。

「お二人も食べてみませんか?」
「いえ、私達は結構です」

興味深げな視線に、けれども二人ともに首を横に振る。
護衛中に、しかも王族と共になど安易に頷けないのもわかるが、やはりせっかく作ったのだから、この美味しさを皆と分け合いたいとも思ってしまう。

「少しだけ食べてみてもらえませんか? お二人の感想も教えて欲しいので」
「い、いえ、私達は……っ」
「早くしないと溶けてしまいます」

えいっと強行で口にスプーンを押しつけると、反射で開いたところに無理矢理入れて、びっくりしているアーサーに、続いてエリック副隊長を見る。

「私は結構ですので……っ!」
「エリック副隊長にも味見してご意見をうかがえると嬉しいです」
「……っ、」

上目遣いでお願いすると、どんどんエリック副隊長の顔が真っ赤に染まって、そんなに緊張させてしまったのかと落ち込んでしまう。
やはりラスボスは威圧感があるのだろう。
そんなプライドの様子に、エリック副隊長が困っていると、横からステイルが自分のかき氷を少量分けて差し出してくれる。
そうまでされては否とも言えず、失礼しますとスプーンを手に取ると、一口食べる。
その冷たさに目を白黒させるのに笑むと、ステイルがプライドを見る。

「とても美味しくて素晴らしいと思います。他国の賓客を招いた際に喜ばれるかと」

確かに貴重なものというだけでも目を見張るだろう。
それにこの美味しさならと算段するステイルに、アーサー達もブンブンと頷く。

「俺も、初めて食べました。すっげえ美味しかったです!」
「このような貴重なものを我々にもありがとうございました」

恐縮しながらもプライドの望むように感想を教えてくれる二人に微笑むと、かき氷を見る。
プライドの創作というわけではないので、自分の手柄のように思われるのはなんだか申し訳なく思ってしまうが、前世のことは話せないのだから説明も出来ない。
溶ける氷の向こうに滲むおぼろな世界に、プライドはそっと目を伏せた。

20210807フリ博ワンドロお題【夏】
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