指輪

アサプラ7

「本当にこれで良かったンすか?」
「ええ。これがいいの」

極上の笑みでアーサーを見つめるプライドの手の中には、毎年彼が送り続けてきた銀の飾りがついた栞。
栞こそ買ったものだがとても王族の、しかも王配が女王に贈るような品ではないというのに、プライドは頑なにこれを望み続けてきた。
アーサーとて今はそれなりに高価なものを贈れるというのにだ。

「でも……」
「ならペンダントーー」
「ーーは無理っす! こんな鉄の塊なんかさせたらステイルのやつに怒られますよ!」
「ステイルは怒らないと思うけど……」

けれども以前に提案した時も頷いてはもらえなかったから、やはり無理かと考えて、ふとあることを思い出した。

「指輪ならどうかしら?」
「……は?」
「左手の薬指ならそれほどの量がなくても大丈夫でしょう?」

左手の薬指にする指輪。
フリージア王国にはない習慣だが、プライドだけがこの指にする大切な指輪の意味を知っていた。
『あの世界』でなら誰でも一度は憧れたことがあるだろう結婚指輪。
アーサーの剣で作られたそれを彼からもらえたらどんなに幸せだろうと思うと、どうしても欲しくなってしまった。

「そんなの……っ」
「だめ? 他の指輪を重ねづけにして、変に目立たないように気をつけるわ」
「でも、あんな鉄なんか……」
「アーサーの剣がいいの。お願い」

アーサーの手を取って懇願すると、みるみるその顔が赤くなる。
そんなに強く圧迫してしまったかしらと慌てて緩めるも、それでもどうしても譲りたくなくてじっと見つめ続ける。

「…………っ、公式の場はだめです、が……それ以外の所でなら……」
「本当に!? ありがとうアーサー!」

喜んで握った手に力が入ると、アーサーの顔がさらに赤くなる。

「そんな顔……ずりぃ……っ」
「アーサー?」
「いえ……何か彫りとか希望はありますか?」
「彫りも飾りもなくていいの。シンプルなのがいいわ」
「……わかりました」

渋々の体ではあるが受け入れてくれたアーサーに嬉しくて思わず飛びついてしまう。

「プライ、ド、様!?」
「ありがとうアーサー。すごくすごく嬉しい」

たとえ彼が知らなくても、彼から薬指に指輪を贈られることがとても嬉しい。
それが彼の剣から作られるなんて、なんて贅沢なのだろう。

「すごく楽しみだわ」
「本当に俺の剣なんかで……」
「アーサーの剣だから欲しいの」
「御守り、ですか?」
「いいえ」

俺が傍にいるのにと言うように少しだけ不満の色を感じて手を緩めると、片手を彼の頬に伸ばす。

「だって一生アーサーが守ってくれるんでしょ?」
「ならなんで……」
「とても大切だから」

前世のことは語れない。
指輪も、左手の薬指にする意味も。
だからこれはプライドだけの秘密。

「楽しみにしてるわ」

本当に大したものは作れないっすよ、と眉を下げるアーサーに首をふるりと振って。
来年の誕生日にもらえる指輪に思いを馳せ微笑んだ。
数年の後に女王と王配の指輪の話が国中に広がると、フリージア王国で結婚の証となっていったのだった。

20210614
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