「父さまは母さまのどこが好きなの?」
仕事から帰るとリリーから急に尋ねられて、パチリと瞳を瞬いた。
「急にどうしたの?」
話を聞いてみるとサタナース達のなれそめを知ったらしい。それで自分の両親の話も聞きたくなったようだ。
「母さまは美しいからね」
「え~顔だけ?」
不服そうに頬を膨らませる姿はナナリーにそっくりで、愛しさにやわらかく頭を撫でる。
「違うよ。母さまは全部が美しいから」
「全部って?」
分からないことはとことん追及するところも似ている。
「母さまは嘘を言わないだろう?」
「そうね」
「いつも一生懸命で努力家だし」
ハーレの所長になってからはより一層仕事に力を注いで職員達から心配されるほどで、しっかり休んでくださいと無理矢理取らされる休暇に不貞腐れるほどだ。
「困っている人に手を差しのべることを躊躇わないし、どんなに怒ってもきちんと謝れば許してくれる」
そんなの当たり前でしょ、ときっと彼女なら言うだろう。けれどもそれを実際に出来る人はそう多くない。
優しくて温かい。
「昔からずっと母さまは美しいよ」
手を差しのべてくれたナイジェリー。
まっすぐに勝負を挑んできた少女。
世界の命運を託された氷の魔女。
いつだってナナリーは美しかった。
変わらないことを望んだのに、僕が望んだことで日常を変えられた。
けれどもやっぱり変わらず彼女は美しくて、変わらないでほしいと望んでいるのは僕の方なのかもしれない。
「父さまって本当に母さまのこと大好きね」
「もちろんリリーのことも大好きだよ」
「母さまの次にでしょ」
「父さまと母さまの大切な愛しい娘だよ」
拗ねたように頬をふくらませていた娘がギュッと抱きついて、「私も父さまと母さまが大好き」と伝えてくれるから、微笑みながら膝の上に抱き上げて頭を撫でた。
***
「リリーに何を言ったの?」
夕飯時にリリーが「母さまのように美しくなる」と宣言したことを言っているらしい。
眉間を寄せて訝しそうに見つめる姿は相変わらずで笑ってしまう。
「君のどこが好きかを聞かれて答えただけだよ」
「は?」
予想外だったようで動きを止めると、考えるように視線が下を向く。それで何故美しくなる宣言なのかと思っているのだろう。
彼女は自分自身のことには本当に無頓着で、目を惹く存在である認識は昔からまるでなかった。
今でこそ所長になり、奥にいることが多いが、受付にいた時には毎日あんなに口説かれていたというのに、全てお世辞だと思っていたのだから筋金入りだ。
今だって声をかけられるのは僕に取り入りたい者ぐらいにしか思っていないようだが、警戒心を持っただけまだましか。
「好き……美しい……?」
そんな彼女だからいつまでも結びつかないらしい。
疑問符が飛び交っているであろう頭のてっぺんに口づけると、「なっ」と小さく呟きあっという間に赤くなる。
「君は美しいよ、ずっと」
「お世辞はーー」
「お世辞じゃないから。昔からずっと思っていたよ」
「あ、ありがとう?」
「なんで疑問形?」
人の好意をむげにはしない彼女だから、礼は言うものの納得はできていないのだろう。
「あばたもえくぼ」
「何それ」
「蓼食う虫も好き好き?」
「自分で言うもの?」
堪えきれなくてふきだせば、腕の中から抜け出そうとするから、宥めるように頭を撫でてもう一度口づけを落とす。
「君は美しい人だよ」
何度でも伝える。
一番美しいと思っていると。