与えられる熱が慈しむものから、激しく求めるものになったのはいつからだろう。
初めはまるで壊れ物に触れるような、大切な宝物に触れる、そんな少しの戸惑いと優しさを含んだものだった。
初めてのことにどうしていいか分からず、自分の感じるものが何かも分からなくて、分からないことに混乱する私を、アルウェスは穏やかな声で大丈夫だと、気持ちが落ち着くまで優しく頬を撫でてくれていた。
こうした行為を知った今では、最中に欲を抑え込むことがどれ程大変か分かる。
それを少しも感じさせずに私を労ってくれたアルウェスの辛抱強さなんて言うまでもない。
それに今、こうして求められている様を見ては、どれ程強靭な忍耐力だったのか。
散々とろけさせられてから、彼の昂りを泥濘に受け入れて、そこからさらなる悦楽を与えられる。一人でイクのは嫌だと、そう伝えてからはアルウェスも一緒にのぼって弾けて。
なのに身体の中の昂りはすぐにまた固く大きくなるのだから、騎士はどれだけ体力オバケなのかと戦慄することもしばしば。
それでも本当に私がツラいと思ったら、アルウェスは自分の欲を内に押し込めてしまうから、今日は我慢しないでアルウェスが望むままに、とそう言った。
確かに言った。自分の意思でだ。
だがしかし、よもや空が白んでくるまで付き合わされるとは思わないだろう。しかも治癒魔法まで使われて。
確かに身体の怠さも体力も回復する。ついでにあれほど我慢できずに甘い声をこぼし続けたのに、のどに痛みもない。
その優秀さが腹立たしい……と思う暇もなく、再び揺れる視界に覆い被さる男を見上げた。
視線が合うとにこりと微笑まれて、重なる唇とともに昂りが奥に押し込まれて矯声が口の中に飲み込まれる。
「も……っ、しつこ……あっ、ふぅ……ん……いつ、まで……」
「望むままに、いいんでしょ?」
にこりと、言質は取ったとばかりの微笑みに、のどがひくつく。
確かに言ったが、もう日も変わってるのだ。
その約束は無効だと言おうとして、ふわりと身を包んだ魔法にまたかと眉が寄る。
行為が始まって何度とかけられた治癒魔法。
まだやる気なのかと睨みあげれば、身を引かれて。
内側から抜けていく刺激にゾクリと疼きが広がって、かすれた声と吐息がこぼれた。
「ナナリー」
名前を呼ぶ甘い声。
欲を滲ませたこの声は私しか知らないものだと、そう思うと自然と中が狭まって、昂りから与えられる悦を求めるように蠢めき、眉をわずかに寄せたアルウェスからとろりと溶け出した艶めいた空気が全身に熱を孕ませる。
「もう少しだけ付き合って?」
浅い所を緩く揺さぶられながら覗き込まれて、脳を侵食していく疼きに手を伸ばすと、身を屈めたアルウェスに吐息で掠れた声で伝える。
「……奥……ほし、いっ」
溢れる熱をどうにかしたくて、恥ずかしいとかそんなことも頭のすみに追いやられてアルウェスに請う。
グッとのどからこぼれた、声とも言えないものが耳に届くとズンッと最奥を抉られ、待ち望んだ甘い痺れに全身が快楽に震えた。
緩やかだった動きが互いを解放させるものになって、肌を打ち付ける音と、汗がパタパタとアルウェスから散り落ちる。
アルウェスに愛されているんだと、全身で感じるこの行為を好きだと、そう言葉で伝えるのはまだ恥ずかしいけれど、腰を引き寄せる手に指をそわせて伝わればいいとひそかに思う。
「……本当に、凶悪だ」
一瞬止まった動きはすぐに再開されて、高まる熱は冷めることなく、弾ける瞬間に向かっていく。
「あっ、や……もっ、ん、んん……っ!」
「くっ……はぁっ……はっ」
こんな時しか見たことのない息を乱したアルウェスの姿に、無意識に果てた昂りを食いしめると息をのむ音がして。
「はっ……しつこいって言ったのは誰だったかな?」
「違っ、不可抗力……っ」
髪をかきあげ目を細める男の壮絶な色気にあてられてさらに狭まる中に、違うもう無理と慌てるも、またも魔法が降り注いで。
反論の声を口づけで封じられて、舌を絡めて食まれたら思考はあっという間にとろけていって。
再び揺れる視界にもう抗う気力もなく、ただもたらされる熱さを享受して、ぐずぐずと二人溶けていった。
2025.6.6