魔法と初恋

ロクナナ31

セーメイオンの呪文を唱えた時に、自分の髪色が変化したのは驚いたし、少しショックだった。
元の色にそれほど愛着はなかったけれど、水色はあまりにも目立ってなんとも居心地が悪かったからだ。
けれども氷の型は少ないと聞いて、もともと魔法の勉強は楽しかったし、珍しいこの魔法型を極めて成績一番になってやると俄然やる気が出た。何より火型のあいつとやり合うには、対局でいいんじゃないかと思えた。

「フロガ(炎)」
「ニパス(吹雪)」
「クリスタロ·ドラコーン(氷結龍)」
「フロガ·ドラコーン(爆炎龍)」

繰り出される術に対抗して、爆弾には氷弾を、火の龍には氷の龍を出して互いの首を噛みちぎろうとするが、操る本体(ロックマン)まで届かずに、同時に二匹の龍が倒れてしまった。あと一歩。それが届かなくて歯噛みする。どうやったらあいつを仕留められるのか。
氷の超高度魔法をヤツより先に覚えればロックマンに勝てると、必死に勉強して訓練して、なのにあいつは当たり前に、火型の対抗魔法を繰り出してきた。

「負けてたまるかー!」

万年二位に甘んじてきたこの恨み。
今度こそ絶対に勝つ!


*****


「絶対零度」

シュテーダルの背後にしがみ付いて、守護精の呪文を唱えたヘル。
同じく僕の守護精の呪文を受けても何の傷を負わせられなかった相手を凍らせ、破壊した彼女は力尽きて地上へと落ち、そして長い眠りについた。
それを目覚めてから教えられて、自分の不甲斐なさにどうしようもなく腹が立った。誰よりも守りたかった彼女に全てを託し、その身を危機にさらした。これで王国王宮魔術師長なんて笑えやしない。始祖級なんて名ばかりだ。魔力を使い果たしたヘルを癒すことさえ出来なかったのだから。
言葉は魔法だ。それならこの言葉は彼女に伝わるだろうか。

「起きなよ。いつまで寝ている気? 寝過ぎて熊になるよ」

軽口にいつもなら倍になって返ってくる言葉もなく、静かに眠る姿に唇を噛む。
大切な人の色。思い出の中の彼女。その姿と同じヘルを前にして、けれども浮かぶ思いは懐かしさではなく歯がゆさ。もう一度会いたかった。けれども望んだのはこんな再会ではない。
健やかであって欲しい。それが願いで、何より守りたかったこと。
なのに彼女は強い意志を宿した瞳を、瞼の裏に隠して眠っている。

「君、僕のこと嫌いなんだろう」

冷たい感覚の中で目にした最後の記憶が彼女の泣き顔であることが苦しくて、早く目を覚ましていつものように罵ってほしいなんて。

「起きてよヘル」

僕の魔力で目覚めるのなら、いくらでもあげるから。目を覚まして、役立たずと怒っていい。
願うことしか出来ない情けなさに、それでも言葉を紡ぎ続けた。君が目覚めるようにと。

2025.6.6
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