ロクナナ短文詰め

ロクナナ28

【出会い】

出会いは最悪だった。
突然声をかけられ、何故か勝負を挑まれた。
何だこいつと思ったけれど相手は貴族だ、下手に逆らうよりもと素直に受けたら負けた。

「僕の勝ちだ」

どす黒い笑みにわいた異様な敗北感は何なのか。
それからアイツとの勝負の日々が始まった。
しばらくは席に着く度にジャンケンをした。
勝って勝利に酔うも、翌日にはあっさり負けを更新される。
筆記試験でも毎回二位。
予習復習を欠かさず、分からないところは理解できるまで追求しているのに二位。必ず上にアイツがいる。
何が悪いのか先生に聞いてみても、「お前はいつも百点満点だよ」なんて笑って答えてくれなかった。
悪いところは自分で見つけろと言うことなのだろう。
魔法勝負でアイツの腕を凍らせても、すぐに溶かされ燃やし返される。
この存在には負けられない。
これは本能ってやつなのか、本能なら仕方ない。
だから今日もアイツと勝負する。


【仮面舞踏会】

父が連れてきた見たことのないその女は、会場に入るや真っ先に料理の置かれている場所に向かった。
彼女を間近で見たくて、同じ料理を手にして自然と近寄る。
今日は仮面舞踏会。
金色の蝶の仮面で覆われ顔は分からず、アリスト博士との会話で姿を変えていることも分かったが、その美しさに不思議と惹かれた。
なのに魔法が解けて目の前にいたのはやっぱり君で、その姿をマントで覆い隠した。

「完璧に変装したいなら、美しくならないことだ」

不服そうな呟きに、ため息がこぼれる。

「────せっかく良い女を見つけたと思えばこれだ」

君以外の女を見つけたと思ったのに、やっぱり君で。
僕の想いなどまるで分からない君は、教えたキュローリ宰相の作った法も、そのままの意でしか捉えられないだろう。
それでいい。それならなぜ教えたのか。
その答えを君は知らない。


【修学旅行】

発情植物と呼ばれる如椄花。
突然の出来事に防御膜が間に合わず、わずかながらも魅了の花粉を吸ってしまった。
朦朧とする意識に目頭を抑える。
植物園の女性職員を呼ばなければと思うものの、身体が思うように動かずに膝をついた。
『恋する相手よりわたくし達に夢中になりなさいな』
花から伸びる何本もの蔓。
虚ろになる視界に、鮮やかな水色が映る。

「しっかりするの! 花と女の子どっちが大事なのよ!」

花なんかに負けるんじゃないわよ!と、怒りをあらわにするヘルを認識して、違えぬ目映さに「……女の子」と返すと、さすがスケコマシと妙な感心をされた。
君は知らない。
いつだって僕を惹きつけているのは誰なのか。
魅了の力さえはね除ける鮮やかな存在。


【海の国】

無意識に薬指をすり、と撫でる。
もうそこに金の指輪はない。
ロックマンから渡されたドルセイムの知恵。
『待ってて』『必ず行く』
今まで見たことのない悔しそうな顔で、私の薬指にそれをはめた。
素直にアイツの言うことを聞く必要なんてない。
そう思っても外そうとは思えなくて、そんな自分にもやもやした。
来てくれた時だって、槍をぶん投げてきたのだ。
当たったらどうしてくれるのか。
とても助けに来た者の行動じゃないだろうと、思い出したらまたムカムカと怒りがわいて。
なのに風に揺れた髪が肩を撫でたら、海の国で抱き寄せられたアイツの手の感触を思い出して、またもやりと胸が騒いだ。
立ち止まって振り返り、反対方向に去っていく金の髪の男を見る。

「ナナリー行くわよ」
「うん」

ーーアイツに触れられた肩が熱い。


【幼児化】

私の右手と離れなくなってから終始無言だったちびロックマンは、それまでが嘘のように沢山話し出した。
お姉さんは誰なのか、外は楽しいのか。
全て正直に話すわけにもいかず、騎士団で働いている迷子を助ける係なんて嘘を答えた。
ゼノン王子に言われるがまま変えた茶色の髪も、大人のロックマンに今の記憶が出来てしまうことへの対策だ。
それからお腹が空いたというちびロックマンにお菓子を作って食べさせたりしていたら、ずっと一緒にいてほしいと泣かれた。
隔離されていたというから、久し振りの触れ合いに安心感を覚えたのだろう。
涙に濡れた大きな瞳に、けれども出来ない約束はしないと、慌てて衣装箪笥から緑の小箱を取り出して、小さな手に渡す。

「もしこの蓋を開けないで持ち続けていたら、きっともしかしたら、嫌でも顔を合わせることはあると思うし」

二人ともが開けなければ必ずまた会えると、所長は言っていた。
まだ勝ちを取っていないから、会えなくなるつもりはないと開けていなかったそれ。
会ったら喧嘩もするし、腕を凍らされたり、髪を燃やしたり。
兄弟でも友達でもなく、恋人でもない。
それでもずっと繋がり続ける。
それを全く自分が疑っていないことに気づかずに、小箱を見つめる小さな頭を撫でた。


【渇望】

*ロックマンが経験ありなら…の妄想。モブ相手なので注意。

渇求に潤いを求めて手を伸ばす。
後腐れがなければ相手は誰だっていい。
この身を焼く思いを鎮めてくれるのならば。
求めてやまない人は、絶対に手を伸ばせない。
幼い頃の淡い思いとは異なる浅ましい劣情。
男の当然の欲求と言ってしまえばそれまでだが、目の前の相手を見ていないなんてどれほど不誠実だろう。
変身魔法で姿さえ変えているのだから。
避妊薬は使わない。
それよりも魔法の方が確実だ。
万が一があっても、次男だからさほど問題にはならないが、自分が家庭を持つイメージなんてまるでわかなかった。

一瞬の熱は、吐き出すと共にあっという間に消えていく。
目の前に横たわる柔らかなぬくもりに、先程まで感じていた思いは欠片もなくなって、こんなにも冷めた感情を抱いているなんて知ったら、相手にどれだけ恨まれるだろう。
もちろんそれをおくびにも出さず、労るように頬を撫でる。
口づけはしたくなくて、誤魔化すように額へ儀礼的に触れた。
また、とシーツを肩までかけてやり、外へ出る。
宿に泊まることはない。
口さがない女はそもそも選ばないが、立場的にも長居はせずに夜のうちに寮へ戻っていた。
騎士団ではこうしたことは当たり前だから、咎めるものはいない。
ゼノンには眉を潜められて、多少の苦言はこぼされるが、適当に流していた。

湯を浴びて身体に残る他者の気配を流し去ると、気だるげに寝具に沈む。
満たしたはずなのに渇きは癒えなくて、グッと額に手を当てた。
浮かぶ水色に眉が歪む。
今思い出したくはないのに、いつだってこの胸にこびりついて消えない存在。
何度と諦めて、それなのに会ってしまえば簡単に心が揺さぶられる。

どんなに他のぬくもりを得ても、どうしたって満たされない。
代わりになんて考えもしない。
必死に彼女を思い浮かべないようにしているぐらいなのだ。
浮かんでしまえばその瞬間にも、目の前の対象から興味が失せてしまうだろう。

身にこもる熱を逃がすように吐息をこぼす。
いつまでこの熱に焼かれ続ければいいのか。
身分の差。
彼女と隔てる大きな壁。
だがそれだけでなくーー。

「君が僕を好きになるはずもない」

学生時代の所業は理由があるにせよ、とても許されることではない。
いくらトラウマに触れるもので、冷静に対処できなかったとしても、暴力を振るうなど女の子にしていいことではなかった。
それなのにいつだって彼女はまっすぐに向き合い、負けないと立ち向かってきた。
身に過ぎる力を努力で補い、物にして、その手でついに自分の夢を叶えた。
どこまでも綺麗で、まっすぐで、自分なんかがとても触れていいはずがない。
それでも目で追わずにはいられず、その視界に入れば子どもじみた会話を交わしてしまう。
関わらないでいられればーーそんな思いより求め、飢える。
幸せであってほしいと願う思いと裏腹に、他者の手を取る姿を考えたくもないとも思ってしまう。
進む思考にこれ以上は考えたくなくて、肉体的な疲れに身を委ねて強制的に遮断する。
蟻地獄に足を取られたようにもがきながら、明日もまた柔らかな存在に僕は手を伸ばす。
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