「う~ん……」
「なに、まだ決まらないの?」
水着を前に難しい顔で唸っていると、早々に決めたベンジャミンが歩み寄ってくる。
「これなんていいじゃない」
「いや、お腹が出てるヤツはダメだから」
「は?」
あれもダメ、これもダメと、手に取っては戻すを繰り返す。
どうして水着というものは、こうもビキニしかないのか。
民族衣裳がもとになっているからと言われればその通りなのだろうが、誰もが体型に自信があるわけでもないだろう。
「水着にお腹が出ないヤツなんてないわよ」
「アイツの前で絶対腹出しはしないって決めてるの!」
思い出すのは以前セレイナ王国に初めて行った時のこと。
恐ろしい確率で遭遇するロックマンに、脇腹をつねられた屈辱はいまだにしっかり記憶していた。
だがいくら毎日腹筋を鍛えても、胸が大きくなるわけでもない。
どうしてマリスやベンジャミンのように成長しなかったのか。
母には十分な膨らみがあるから、遺伝でもない。
やはりこれは学生時代に女としての努力を怠ったからかと、うまれることのないくびれに項垂れても今さらどうしようもなく、結果『寸胴』を誤魔化すデザインを探さねばならなかった。
「いっそパレオを肩から巻けば……」
「ダサいわよ」
「く……っ、ならいっそ服のままーー」
「却下。もう、あんなのロックマンの悋気なだけなんだから、気にしなければいいのよ」
「は? 悋気?」
ベンジャミンの言葉に目を瞬く。
悋気。
男女間のことでやきもちをやくこと。
「ないない」
とっさに浮かんだ辞書の説明で意味を理解した瞬間、即否定する。
アイツがなんで悋気を起こすのか。
そもそも誰にするというのか。
「告白しあったのにまだそんなこと言ってるの?」
「ぐ……あれはそんなんじゃ……っ!」
「ならどんな意味よ」
告白と言われて頬が赤らむ。
あれは勢いで告げてしまったもので、応えを望むものではなく、むしろ同意を返されたことの方に驚いた。
けれどもその後何か変わったかと言うと、たまに二人でご飯を食べに行くようになったぐらいで、それも数ヶ月に一度程度だった。
「あれは……きっと売り言葉に買い言葉でアイツも気の迷いでーー」
「ない。それは絶対ない」
即座の否定に、けれどもやはり今でもロックマンが私を好きだなんて思えない。
むむむ……と水着を選ぶ手を止め唸っていると、ベンジャミンがさっさとひとつ選んで押しつけてくる。
「どうせどんなのを選んだって変わらないんだから、好きなの着ればいいのよ」
「は? どういう意味?」
「いいからいいから」
ぐいぐいとレジへと背を押されて、仕方なしに購入する。
「……どうせそのまま着せる気なんてないだろうし」
だからそんなベンジャミンの呟きはレジの音でかき消されて、耳にすることはなかった。
20220607