ラストダンス

ロクナナ21

ーー躍りは人生を表している。
中でも最後の曲は人生の終わりを示していて、最後に踊る相手は『人生の終わりまであなたと一緒にいたい』という意味が込められているらしい。

私はロックマンと三度ダンスを躍り、そのうち二度ラストダンスを踊った。
アイツと踊る機会なんてほとんどなかったのに、居合わせたそこで二度とも向こうから誘われたのだ。

アイツが意味を知らないはずがない。 だって他の舞踏会では母親のノルウェラ様か王女としか踊らなかったと、マリスも言っていた。
ならば何故、と言うのはもう今さらだけど、それならもしかして……と浮かんだ考えに、ブンブンと頭を振る。
そんなはずはない。
あるはずもない。
だっていつでもアイツの周りには綺麗な女の子が沢山いて、いつだって私とは喧嘩ばかりで優しくなんてされたことはなかった。
ああ、でも、学生の頃のことは魔力の暴走を防ぐために、力を抜かせようとわざと絡んでいたんだったか。
なら、もしかして。
疑問は胸にポツリとインクのようにこぼれて染みて。
カッと一瞬のうちに身を焼いた。

初めて踊ったのは、卒業パーティー。
二度目は、仮面舞踏会。
勝負や参加理由の確認、と理由はつけられたけど、それだって結局勝敗なんてつかなかったし、理由を問うのに踊る必要なんてなかったはずだ。

『人生の終わりまであなたと一緒にいたい』

その意味を込めてなら、それはどんな思いからなのか。

「うわあぁぁぁ~っ!」

ゴロゴロとベッドの上をのたうち回って、激しさの余り床に落ちて。
打ち付けた腰の痛みに呻きながら、顔の赤みは一晩中取れなかった。



「君、酷い顔だけどまた遅くまで勉強してたの?」
「何でもないから放っておいて」
「その隈、受付嬢として失格だと思うけど」

会いたくないと思う時ほど、ロックマンとの遭遇率は高い。
それを恨めしく思いながら、シッシッと手で邪険に払うも、仕事終わってないからと大人しく引き下がらないヤツに視線を落とす。
まともに顔なんて見れるはずもなく、早く立ち去れと念を込める。
だけどそんな思いもむなしく、グッと顎をつかまれて、強制的に視線が合った瞬間、ボンッと全身が発熱すると、探るようだった目が、驚き丸く見開かれる。

「具合が悪い……わけではなさそうだね」
「違うから。いいから放っておいて」

今はとてもじゃないが顔を見れないと、目を閉じて手をこれでもかと突き出して必死に拒絶すると、顎から手が離されて。
ビシッと額を指で弾かれ、痛みにカウンターの中でのたうち回る。

「何すんのよっ!」
「社会人なんだから健康管理も責任の一つだよ。新米受付嬢さん?」
「くぅ~もう三年目よ!」
「へえ、三年も働いててその体たらくなんだ」
「くそぅ~」

地団駄を踏んで悔しがると、ふぅとため息が聞こえて。

「……本当に無自覚も大概にしてほしいね」
「何か言った?」
「目が覚めて良かっただろ?」
「うるさい早くどっか行け!」
「おお~怖い怖い」

大袈裟に胸の前で手を上げると、嘲笑を浮かべ去っていったロックマンが何を呟いたのか、結局わからなかった。

20220412
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