「火と氷の間には子供が出来ない……って覚えてる?」
ようやく身の内の火照りが覚めてきた頃に、髪を弄られながら聞こえた呟きに、ナナリーは気だるげに言葉を返す。
「当たり前。それ、私が教えたんじゃない」
そう、ぽろっと氷の始祖との会話を口にしてしまったことで、連日魔物や始祖についての話をするようにとシュゼルク城の部屋に呼び出され、情報をと箱詰めにされたのだ。
覚えていたことは初日に全て話したというのに、懲りずに何度も何度も呼び出され、しかも尋問はコイツという酷い嫌がらせの日々の記憶に眉をしかめる。
「でも呪いも解けてきているようだから、仲良くすれば大丈夫……って」
あのときと同じ様にスルスルと答えて、その後の出来事を思い出す。
何故かこの話をした時、目の前で優雅に紅茶を飲んでいたコイツが吹き出した。しかも二回。
さすがに病気なのかと心配したけど、大丈夫だと立ち上がって尋問は終了。
何なんだと思いつつ、寄ったベンジャミンの家で同じことを聞かれて話した際に、自分がとんでもないことを話したのだと気づいて私はテーブルに突っ伏したのだった。
急速に熱をはらみだした顔に、ブンッと身体を横に背ける。
とてもじゃないが今ヤツを見れるわけがない。
だって今まさに『仲良く』した後なのだから。
「解けてるといいね」
背後から聞こえた呟きに、ドキドキと忙しなく動いていた心臓が暖かくなる。呪いが解けているといい――それは、ナナリーとの子供を望むということ。
「本気?」
ここまで許して本気も何も、違ったらどれだけ不誠実なんだと思うが、今でもやっぱりどうして私をと思うから。
「欲しくない?」
「それは……」
子供が欲しいかと問われれば、正直わからない。出来たら大切にしようと思うし、それがアルウェスとの子供なら――いいと思う。
「だったら――仲良くしようよ」
見上げた視界に広がる眩い金。眼鏡はこの行為の前に外されて、ずり落ちてくるなんてこともなく、やんわりと唇を食まれた。
そして再び身の内に熱が宿るのを、その背に腕を絡めて了承した。
20211130