じれったい恋だけど

ロクナナ14

ヘルと食事を共にするようになって何度目か。
好きだと言われ、好きだよ僕も、と返して。
なのに彼女の中では付き合っていることになっていないらしいとわかったのは、告白から一月後、仕事でハーレに出向いた時だった。
それまで連絡もなく、こちらからもしなかったので文句は言えないが、彼女の姿を見留めた瞬間に理解した。
ただまったく意識されていないわけではないのは、視線をそらしながらもほんのり頬が染まっているのでわかったから、彼女が受けやすいように誘導して食事へ誘った。
それから会う度に口論に持ち込み、約束を取り付け、今日もまたこうして二人で食事をしているが、やはり彼女の態度は変わらない。
向けられる女性の視線はいつもの事ではあったが、それに嫉妬する様子もなく、それが当然だと受け止めているのが彼女らしく、内心ため息が出る。

(ヘルの中で僕はどんな立ち位置なんだか……)

意識されていないわけではない。
それは以前には見られなかった表情からもわかるので、どうしようかと思案する。
こんな関係も悪くないとも思ったが、やはり欲は出てくるものだ。
怖がらせたくないし、大切にしたい。
彼女の隣を他の男に許したくはない。
けれどもこのままでは、ヘルは何も考えずにリゲル・ヤックリンと出かけたように、顔見知りに誘われればあっさりまた出かけてしまうだろう。
ならばどうやって関係を進めるか。
恋愛経験のないヘルが戸惑っているのはわかるので焦るつもりはないが、意識は常にさせる必要があるだろう。
ゼノン王子からも、ナナリーは相変わらずだなと笑われたぐらいなのだから。

「それ、美味しい?」
「果実がたっぷり入っててすごく美味しいわよ」
「こっちのも美味しいよ」

サービスだと渡されたデザートの皿を示せば、興味を引かれるのだろう、視線が刺さる。

「交換しようか?」
「い、いい」
「なら一口だけは?」
「…………」

考えこむヘルに一口分フォークですくって差し出すと、はあ!?と顔が赤く染まる。

「な、何してるのよ!」
「一口分の交換」
「あ、あんたのフォークからなんてそんなの出来るわけないじゃない!」
「なら自分でどうぞ」

皿を差し出しすくったフォークの上のデザートを口に運ぶと目が泳いで、しばらくの間ののちにおずおずとフォークが端をすくう。

「……!」

パアッと輝く表情に笑みを堪えると、代わりにと差し出された皿から一口分もらって。
こんな些細なやり取りさえ楽しくて、幸せを噛みしめた。

20210601
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