恋愛初心者

ロクナナ13

「ニケもベンジャミンも殿下も、三人とも本当に可愛いなぁ」

語尾にハートがつきそうなぐらい、にんまり微笑みながら呟くと、ニケが頬を赤らめながら唇を尖らせた。

「あんまり見られると恥ずかしいんだけど……」
「ナナリーだって可愛いじゃない」
「いや、自分は何か色々複雑で……」

何それと笑われるが、ニケやベンジャミンに関しては学生時代の姿を懐かしいと思うし、可愛らしくて微笑ましいのだが、あの頃の自分を目の前に今の大人の自分が冷静に見返すと、本当にちっぽけなくだらないことでむきになってロックマンに突っかかっている姿がいたたまれなくて仕方なかった。

「ねえ、今度またあの頃の姿でお泊まり会しない?」
「いいわね! ならナルくんにお願いしとくね」
「だったらニケの髪、二つに結わいていい?」
「……なんでそんなに結わきたがるのよ」
「え? だって可愛いから」

学生の頃の姿に変身した姿を見た時に、可愛すぎて思わず抱きしめてしまったことを思い出すと、ニケが頬を赤らめて顔を背けた。

「でもナナリーはやっぱり水色の方がしっくりくるわよね」
「元々の色はあっちなのに?」
「見慣れてるし、綺麗でいいじゃない」

水色の髪を誉められても、やはり人目を無駄に引くというデメリットしか感じられず、どうにもナナリーには同意できない。

「生徒にも人気だったそうじゃない」
確かにナナリーの担当しているクラスの女子にも、何なら幼い自分自身にも綺麗だと誉められ、髪を染める呪文を教えて欲しいとねだられた。

「そうだけど……」
「私の髪を結うならナナリーのも久しぶりに色々弄らせてね」
「そうよ。全然シャレっけがないままだもの。そんなんじゃマリスに「アルウェス様の前にそんなみすぼらしい格好で立つおつもり!?」って怒られるわよ」
「みすぼらしいって酷くない?」

それでもマリスなら言いそうだなと思うと、改めて自分の格好を見る。
動きやすさ重視で柄もないシンプルなワンピースは、子どもの頃からほぼ変わらずだ。
それでも。

「アイツだってどうせ私の格好なんか気にもしないわよ。前にベンジャミンが服を買ってくれた時も、何も言われなかったし」

あんなにも可愛い服だったというのに誉めるどころか、二度もため息をつきやがったのだ。
私がオシャレなどしても失笑されるのがオチかと思えば腹立たしくなってくる。

「そもそも何で私がアイツのためにオシャレしなきゃいけないのよ」
「付き合ってるんだから当たり前でしょ」
「付き合ってない」
「え?」
「だから、付き合ってない」

ナナリーの言葉にニケとベンジャミンが顔を合わせる。

「前にお茶した時にもおかしいと思ってたけど……」
「あんなに堂々と告白したのに何で付き合ってることになってないのよ。ロックマンだって好きだって言ったんでしょ?」

確かにそうだが、ナナリーは眉をぐっと寄せて小さく呟く。

「ロックマンは貴族だし」
「恩賞で一代限りの婚姻の自由を望んだんだから、何も問題ないじゃない」
「ぐ……」

確かに何を思ってか、アイツが恩賞に望んだのは婚姻の自由。
そのおかげでますます周りに女性が群がるようになっていた。

「アイツだってただの飯食い友達としか思ってないだろうし」

あれから数ヶ月に一度ぐらいで一緒に食事には行っているがそれだけだ。
そう答えると、目の前の二人が呆れたように肩をすくめた。

「ナナリーはロックマンと付き合いたくないの?」
「別に」
「でも他の人とキスするのは嫌なのよね?」
重なる追求にグッと口ごもる。
好き、ではある。
しかし教科書代わりに小説を読み漁ってはいるものの、恋愛の初心者も初心者すぎて、何をどうすれば正解か全くわからなかった。
それなら経験豊富なアイツに主導権を、と言うのも嫌で、結果何の発展もない現状だった。

「ロックマンも大変ね……」
「何でアイツが!」
「ナナリー相手だからよ」

つい反射で返すも同意は得られず、帰ったらじっくり話し合うわよと微笑んだ二人の笑顔にたじろいだ。

20210518
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