密かな誓い

ロクナナ12

ハーレの扉をくぐって、対応してくれる職員に用件を伝えてから、受付に座る彼女を見る。
絶対目を合わせるもんかという強い意思をここまで感じさせるのがヘルらしく、笑いを噛み殺しながら確認すると魔法が解除されてることに嘆息した。
やはり自身にかけられてる魔法に反応して無意識のうちに解除したらしい。
オルキニスが氷の魔女を集めていることから、国では氷の魔法使いに型を偽るように通達し、第一小隊がひっそり何かあれば相手に跳ね返る反逆の守護魔法をかけていた。
ただヘルだけはこうして解除してしまうため、アルウェスが魔法をかける役を担い、定期的に確認するようにしていた。
また噛みつかれるだろうことを予測しながら近寄ると、案の定顔が歪む程にしかめられた。

「これ以上見れない顔にするのもどうかと思うよ」
「仕事中なんだけど」

失礼なヤツめと、眉間をこれでもかとしかめながら、一応は返答するヘルに、僕もだけどと職員待ちの現状を示唆すると、ぐぬぬと不満そうに言葉を飲む。
同僚を責める気は毛頭ないらしく、だったらあっちで大人しく待ってなさいよと顔を背け、わざとらしく書類を手に取る。

「君は暇そうで羨ましいよ」
「はあ? あんた、ケンカ売ってるの?」
「売ってるのは君でしょ」

売り言葉に買い言葉は彼女とはいつものことで、ポンポンと言葉を交わしながら再び守護魔法をかけていく。
ヘルに気づかれないように、その上で強力なものを、というのはアルウェスでも神経を使うが手間を惜しむ気はなかった。
彼女が無意識に指を鳴らしてるのを見ながら魔法がかかったのを確認すると、先程の職員が奥から戻ってきたのに気づいて身を翻す。

「じゃあね、早く破魔士の受付に座れるようにね、新米受付嬢さん」
「うっさい!」

ガアッとまさしく噛みつく勢いで怒るヘルにひらりと手を振って、必要な書類を職員から受け取りハーレを後にする。

「全く手のかかる……」

学生の頃から何かと食ってかかられ、相手をしていたことを思い出して口元が緩む。
あれは理由があったにせよアルウェスのせいだったが、それでも執拗という程にムキになっていたのは彼女だった。
学校を卒業してそれぞれの道へ進み、自然と縁も途切れるだろうと思ったが、意外とハーレと騎士団は職務上関わることも多く、管轄エリアが被ることもあってこうして彼女と言葉を交わすことも多かった。
それを望んだわけではないが、イヤだと思ってもいないのだから面白い。
ただ変わらないのは、彼女が幸せであるように見守ること。
関わらなくていい。
ただ自分がそうすると決めているだけだ。
だから関わる必要はないのに、氷の魔法使いの保護という仕事に、自分しか彼女へ魔法を持続させられないというのだから関わらないわけにはいかなかった。

「さてと……」

手にした書類に、天馬に乗る。仕事中は使い魔ではなく、天馬に乗るのが決まりだった。
遠ざかるハーレを一瞥して、また近いうちに確認が必要かと心の内で呟いた。

20210513
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