好き、って言って

瞬ゆき15

好きと伝えると、瞬が泣きそうな表情を浮かべるようになったのはいつからだろう。
いつでもゆきの手を引いて守ってくれる瞬に好きだと伝えると、いつだって笑って「俺もゆきが好きですよ」と言ってくれていたのに。
いつからか同じように返してくれることはなくなり、そんな簡単に口にしてはいけませんとたしなめられるようになった。
簡単に口にしているわけじゃないと伝えても、もうあなたは子どもじゃないんですからと受け入れてもらえなくて、瞬にそんなつらそうな顔をさせるのも嫌でいつしか言わなくなってしまった言葉。

それでもずっとゆきの思いは変わらなかった。
だから瞬から「好きだと言ってください」とそう求められたとき、一瞬間が出来てしまったのは今まで戒められてきたからで、思いが変わったわけではなかった。
瞬が好き。
それはもうずっと変わらない思い。
けれどもそれだけじゃない。
だから少し考えると瞬を見上げて。
「世界一大好きだよ 」と答える。

大切なこの世界に戻れても、そこに瞬がいなければゆきの望んだ未来ではないから、だからゆきは時空を遡って瞬が生きている世界を求めた。
その代償が自分の命であっても躊躇うことはなかった。
瞬のことが大切で、大好きだったから。

そんなゆきを掻き寄せるように抱きしめる瞬の腕は震えていて。
ゆきはもう一度、「瞬兄が世界一大好きだよ」と伝えた。
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