あなただけ

風千15

「ねえ、風早?」
「はい?」
肌を隠すようにシーツを引き寄せ、頭までかぶせた千尋がくるくるとした瞳を向ける。

「あの、ね……その……」

「はい」

「えっと、風早はその、こういうことするの……初めて、じゃないよね?」

「千尋が初めてですよ?」

「嘘! だって全然余裕で私のこと……っ」

言いつのろうとして羞恥に口をつぐむ。

「本当に千尋が初めてですよ? こういうふうに肌を合わせたのは」

まっすぐに見つめる風早に、でもどうしても素直に頷けない。
自分と同じで初めてだというのなら、もっとたどたどしいものなんではないか、と。

風早は千尋よりも8歳も上で、そうなれば女性との関係も当然あっておかしくなく。
でも、他の女性を抱いている風早を想像したくなかった。
一人思い悩んで顔を曇らせる千尋に、仰向けに寝ていた風早は笑みを浮かべると、彼女を抱き上げて自分の胸の上にのせる。

「か、風早!?」
「俺の言うことが信じられませんか?」
「だって……」
「俺が白麒麟だったことは知っているでしょう? この身体はあくまで“風早”の借りものだったから、そんなことに使ったりはしなかったですよ。今は白龍によって俺自身人間に変えられたので、こうして千尋を愛することもできますけどね」
「うん……」
それでも釈然としない千尋に、風早はちょっと視線をずらす。

「俺は教師だったでしょう? 教える立場として、色々勉強したんですよ。より人間らしくいられるように、ね」
「勉強って……」
つい聞き返してしまう千尋に、そっと指を添えて口を封じる。

「それはこれから千尋が経験してみてください。学んだことを全て教えてあげますよ?」
ウィンクしながら微笑む風早に、その意がわかって千尋が真っ赤に染まる。

「風早の馬鹿!」
シーツで顔まで隠してくるまる千尋に、風早はくすくすと笑みをこぼしながら、胸の上でまるまった千尋を抱き寄せる。

「千尋、愛してますよ」
告げられる愛の言葉に、真面目な千尋は黙っていることも出来ず、もそもそっと頭を出して真っ赤な顔を風早に向ける。

「私も風早のこと、好き、だよ」
愛しているとは照れくさくて言えない。
そんな千尋の想いが伝わり、風早は口元をほころばすとそっと口づけた。 そうしてもう一度囁く。
恥ずかしがり屋の恋人の代わりに、「愛している」と。
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