タイヤン

将望54

賑やかな祭囃子が辺りに響く。
美味しそうなたこ焼きや焼きそばの匂いを浴びながら出店を覗き歩いていると、懐かしいものを見つけた。

「将臣くん、金魚すくいやろうよ」
「いいぜ。負けても文句言うなよ」
「負けないもん」

幼い頃は毎年、譲と三人で出かけてやっていた金魚すくい。
始めはすぐに網が破けて泣いていたのに、要領のいい将臣は三人の中ですぐにコツを掴み、沢山金魚をすくえるようになった。
金魚を持ち帰れることが嬉しくて喜んだものの、だんだん負けるのが悔しくなってむきになっていった。
おかげで腕も上達したが、ここ数年はそれぞれ友達と行くようになったから、金魚すくいは久しぶりだった。
お金を渡して網を受け取る。
同じく将臣が隣に並ぶのを見て、せーので勝負する。
一匹、二匹と網に圧がかからないようにサッとすくって、次はと水中を覗いて一匹の金魚に目をやる。
赤く、堂々と泳ぐ姿が記憶を呼び覚まして、つい手に力が入ると、網が破けてしまった。

「あ」
「おいおい、もう終わりか?」

茶化すように笑うと、将臣がまだ破れていない網を返す。

「もういいの?」
「ああ。別に何匹すくったって貰うのは一匹だしな」

それぞれ一匹ずつ入った金魚の袋を受け取ると立ち上がって、出店から離れる。

「それともさっきの欲しかったか?」
「ううん」

首を振ると隣を見上げて、レザーのジャケットを羽織った姿に笑う。
脳裏に浮かぶ鮮やかな赤の羽織り。
それは将臣が還内府として身につけていたもので、堂々とした体格と色合いがついその記憶を呼び起こしたが、手元に置きたいとは思わなかった。
だって将臣は隣にいる。
一度は別れたけれど、将臣はこの世界に戻ってきた。
だから代わりはいらなかった。

「焼そば食べる? 将臣くん好きだったよね」
「お前はわたあめはいいのかよ。必ず買ってただろ」
「かさばるし、手もベタベタになるからいいかな。でもあんず飴はあとで買う」
「ならまずは腹を満たすか」

当然のように絡められた指をきゅっと握り返すと、人混みの中を二人泳ぐように歩く。
やっぱり将臣は陽の下の方が似合うと、幾度と重ねた夢逢瀬の月夜を思い返しながら、沈みゆく太陽を見上げた。

20201204
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