永遠に誓う

将望24

「怪しい」
眉間にシワを寄せ呟く望美に、杯を傾けていた
将臣がん~? と気の抜けた声で振り返る。

「なにがだ?」
「な~んかみんなで私に隠し事してない?」

目の前でこそこそされているわけではないのだが、どうもここ数週間平家の皆の様子がおかしいのである。
それとなく聞こうとするとやんわりと逃げられてしまい、望美ははぁとため息をつく。

「私、まだみんなに信用されてないのかな……?」
かつて敵対する源氏に身を置いていただけに、望美は悲しげに顔をゆがめた。
そんな望美の頭を、将臣がぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。

「ちょ……っ!」
「そんなわけないだろ?妙なこと考えんなよ」
「だって…」
視線を落とす望美を、将臣がそっと抱き寄せる。

「お前を信用してないなんてこと、絶対ないから安心しろ」
軽い口づけを何度も繰り返すと、望美が腕の中で小さく頷く。

その夜。隣りで眠る望美の寝息を確認しながら、将臣はそっと懐を探る。
そこに感じる固い感触に、口の端をつりあげる。

「ごめんな。でももう少しで分かるから……それまで待っててくれな?」
眠る前の望美の顔を思い出し、小さな声で謝罪すると、柔らかな身体を抱き寄せ目を閉じた。

* *

「え? なに??」
いつものように安徳帝の邸にやってきた望美は、着くや突然女房に手を引かれ邸の奥へと連れて行かれた。

「まずは湯浴みをしてお清めを」
「湯浴み? 清めるってどうして?」
望美の問いに女房はにこりと微笑むだけで答えず、あれよあれよという間に衣を解かれ、湯浴みさせられ。
それがすむと今度は数人の女房によって、色鮮やかな着物を着付けられる。

「あの……」
「喋ってはいけません。紅がずれてしまいます」
金細工の美しい冠を飾られ、薄化粧まで施され。
何がなんだか分からないまま、安徳帝の元へと連れて行かれた望美は、そこにいた人に目を丸くした。

「将臣……くん?」
目の前にいるのは、正装とおぼしき着物を纏った将臣。

「どうしたの? その格好??」
「お前とおんなじだよ」
言われ、改めて飾り立てられた自分の姿を見る。

「なんか皆に着付けられたんだけど、今日って何かあるの?」
「今日は将臣殿と望美殿の祝言だ!」
嬉しそうな安徳帝の言葉に、望美が目を瞠る。

「私と将臣くんの……祝言?」
呆然と将臣を見つめると、笑顔で懐から何かを取り出した。
上質の布を開き、その中を見た望美が驚く。

「将臣くん、これ……っ!」
白い布に包まれていた見覚えのある赤い宝石――それはずっと将臣の耳に飾られていたピアスに使われていたものだった。

「これは昔、清盛が俺にくれたものだ。俺と共に死線を越えてきた、俺の魂の一部みたいなもんだな」

「……きっと清盛殿も喜んでくれるでしょう」

「お祖母さま。今日はめでたい席でしょ?」

目頭を押さえる尼御前に、安徳帝がその背を撫で慰める。

「ヒノエに頼んで指輪に加工してもらったんだ。――うん、サイズぴったりだな」
手を取り、左手薬指に通し微笑む将臣に、望美の瞳から涙が零れ落ちる。

「ありがとう……すごく嬉しい」
「望美……」
涙を指ですくい、目をあわす。

「俺と結婚してくれ。世界中の誰よりもお前を愛してる」
「うん……ずっと一緒にいようね」

そっと口づけをかわし、微笑みあう。
沢山の言祝ぎと、拍手と。
皆の祝福に包まれながら、この日の誓いを胸に刻む。
今も昔も、遠い未来も――ずっとずっと永遠に続く想いを
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