恋は続く

弁望112

「なんであんなに気になって追いかけてたのか分からないんだよね~」

久しぶりに会った幼なじみと咲いた昔話に、つい過去の疑問をこぼすと、「そんなの当たり前じゃねえか」と意外な答えが返ってきた。

「弁慶はもろお前の好みだろ? 昔から面食いだからな」
「えっ? なに、それ。そんな覚えないんだけど!?」
「何言ってやがる。俳優の○○とか△△とかいいって散々騒いでたろうが」

上がった名に確かに一時そんなことを言っていたかもしれないと記憶を思い返す。

「それって私が弁慶さんにミーハーして追いかけてたってこと?」
「さあな。ただ興味持った理由は顔だと思うぜ」

きっぱり断言されると違うとも言えず、望美は複雑な思いに眉を歪ませた。
確かに何故こんなにも気になるのか、知りたいと思うのか自分でもわからなかった。
始めはただ運命を変えることに必死で、だから前の時空とは違う行動を取る彼に目が入ったのは必然だった。
けれどもそれから何度と彼を探すようになったのは何故か。

怪しかったから?
確かに平家の間者と会っていたと聞いた時には驚いたけれど、あまりにも平然と源氏を裏切るなんて言うから、その時は全く信じていなかった。
熊野で湛快と話していた時も、その内容はまるで見合い相談のようで、驚きはしても気に留めてはいなかった。
なのにその姿を求め、探したのは一度や二度ではない。
その理由が『面食い』故のミーハーだと言われると何とも複雑だった。

「まさか一目惚れしてたの、私?」
「どうだかな。ま、今はもう夫婦なんだ、過去のことなんか構わねえだろ」
「そうなんだけど、そうじゃなくて! 私、弁慶さんの人となりに惹かれたんだと思ってたから……」

だったらニ度目の時空跳躍の時には、すでに恋心を抱いていたのだろうか。
そうでないと思っていただけに、どうしても複雑な気持ちだった。

「例えば弁慶が顔に怪我をしたとしてどうだ? 冷めちまうか?」
「そんなわけないじゃない」
「だろ? だから今更なんだよ」

干し柿を飲み込むと、ずずっと茶を啜った将臣に、同じく干し柿を食むと今は夫となった彼の顔を思い浮かべる。
綺麗な顔立ちだとは思っていた。
さらに女性の好む甘い言葉をさらりと言ってのけるのだ。
好きにならないわけがない。
始めに惹かれたのが顔と言うのはロマンスが壊れるが、幼い頃から一緒にいた幼なじみの言うことだ、自覚がなくてもそうなのだろう。

「ま、顔だけだったら続かねえだろ。そういうことでいいんじゃねえか?」
「う、ん……」
「あんま考えすぎんなよ。『今更』だって言ったろ?」

確かにきっかけがなんだろうが今一緒にいることは事実だ。
細かいことを気にしない幼なじみの雑さも否めないが、弁慶に不満があるわけでもないのだから、これ以上このことを掘り下げるのもきりがないと頷く。

「そうだね。面食いって言われるのはなんか複雑だけど、実際弁慶さんがイケメンなのは本当だし仕方ないかな」
「じゃあそろそろ行くわ。あんま長居して目をつけられても厄介だからな」
「向こうは大丈夫なの?」
「ああ。まあ、ついた当初は習慣の違いやらで戸惑ってたが、戦がないってだけで上々だろ」

今は生き残った仲間と南の島で暮らす将臣。
彼が平家の還内府だと知った時は驚いたけれど、最後の戦いの最中、九郎達が来る前にもう旅立っていたというのはさすがとしか言いようがなかった。

「下痢止めと胃薬と頭痛薬と……茶葉も持ってく?」
「頼むわ。香草茶はどうも合わないって奴も多くてな」
「事前に教えてくれればもっと用意出来るのに」

現代とは違い、薬草にしろ茶葉にしろ長期保存が出来ないため、どうしても常備しておく量には限りがあるので、弁慶と自分の嗜好品の茶葉は別として薬は患者の来訪を考えると全て渡すわけにもいかず、可能な限りを包む。

「お尋ねものがほいほい文なんざ出せねえって」
「分かってるけど……」

清盛の死で長い源平の戦は源氏に軍配が上がったものの、大半が逃げおおせたとあっていまだ頼朝は追討の動きを変えてはおらず、こうして京に来るのは危険が伴うことだった。
それでも将臣が時折やって来るのは、物資のためではなく自分を気遣ってだと分かるから、望美も出来る限り協力したいと思っていた。

「ま、お前が元気そうで安心した。次来た時は赤ん坊がいたりしてな」
「な……っ」
「じゃあな。薬サンキュー。弁慶によろしく言っといてくれ」

帰る間際の爆弾に顔を赤らめている間に、颯爽と去っていた将臣に、頬に手をやると先程の言葉を思い返す。
確かに弁慶とそういった行為もしているし、現代のように避妊する術もないのだから、いずれは将臣の話も現実となるのだろう。

「ただいま戻りました」
「ひゃあ! べ、弁慶さん!」
「はい。顔が赤いようですがどうかしましたか? 熱はないようですがどこか不調を感じたならすぐに教えてくださいね」
「は、はい。大丈夫です、何ともないですから。あ、今さっき将臣くんが来てたんです」
「彼は元気でしたか?」
「はい。いくつか薬をあげたので在庫が減って……」
「後程確認しますね。ところで望美さん、将臣くんが来ていたことと、先程君が顔を赤らめていたのはどう関係してるんですか?」

きちんと用件は押さえつつ、気がついたことも忘れない弁慶に、望美は将臣との話を思い出して再び顔を赤らめる。

「その、次来た時には赤ん坊がいるかもって言われて……」
「そうだったんですね。まあ、可能性はなくはないかな」
「え?」

さらりと肯定する弁慶に驚くと、水瓶の水で手を清めた彼がこちらを見る。

「授かり物と言いますし、こればかりは何時とは言えませんが……」
「そうです、けど」
「それとも君は早く欲しいですか? なら協力は惜しみませんが」

耳元での囁きに肩を跳ねさせるとにこりと微笑まれて。
その夜は執拗に攻められ、気を失うように寝入ったのは朝方近くのことだった。

20201014
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