■愛蔵版発売前に書いたお話なので、公式設定と異なります。
「望美さんの世界は色々なものがあって面白いですね」
「そうですか?」
望美の世界での平安後期に当たる時代にいた弁慶には、見るもの全てが新鮮であり、毎日散策しては楽しんでいた。
「それにしても本当に薬剤師の資格とっちゃうとは思いませんでした」
以前、冗談で口にしたことがあったのだが、こちらの世界に残ることを決めると、生活の基盤を
立てるためにとすぐに勉強を始め、一発で大学に合格してしまったのである。
「ふふふ、多少の表記の違いはありますが、薬師としての知識が役に立ちました。おかげで問題なく望美さんのご両親にもお会いできますね」
「あッ、えっと……」
慌てる望美にくすりと微笑む。
「冗談です。こちらの世界ではまだ学生の身ですからね。きちんと生計が立てられるようになったらご挨拶に伺います」
弁慶の言葉に、望美は嬉しそうに微笑む。
まだ両親には彼氏ができたことは伏せていた。
理由はたんに照れくさかったからなのだが、自分のためにこちらの世界に残ってくれ、こちらでの生活を成り立たせようと頑張ってくれている弁慶に、なんだか申し訳ない気持ちになる。
そんな望美の考えを読み取った弁慶は、瞳を和らげるとそっと望美の手を握る。
「いいんですよ。今、こうして君が僕の隣にいてくれるだけで、僕は幸福なのだから」
「……うん。ありがとう、弁慶さん」
甘えるように腕に擦り寄ると、くすっと微笑んでくれる弁慶が、望美は大好きだった。
「そういえば、この前ヒノエが置いていった雑誌を読んだのですが」
「ヒノエくんの?」
この世界にいた時、誰よりも満喫していたのが
ヒノエで、推理小説や株など色々なものに興味を持っていたのだった。
「どんな雑誌だったんですか?」
「知りたいですか?」
ふふっと微笑む弁慶に、一瞬悪寒が走る。
弁慶がこんな風に聞き返すときは、大体が望美が困るような内容なのである。
気になるけれども聞けずにいる望美に、弁慶が
すっと雑誌を差し出す。
「これです」
「男の子の……ファッション雑誌?」
望美は買ったことのない、男の子向けの情報誌のようで、最新のファッションやデートスポットなどが取り上げられていた。
「さすがヒノエくんだな~。だから色んなところも知ってたんだ」
それこそ望美も噂で聞いたぐらいの最新ショッピングモールなども知っていて、驚かされたものだった。
「でも、弁慶さんがこういう本を読むのはちょっと意外でした」
「そうですか? せっかくですから、望美さんを素敵な所へご案内したいと思いますし、それに
ちょっと面白いものも載ってるんですよ?」
「面白いもの?」
弁慶に促されて読み進めていくと、望美の手が
ぴたっと止まる。
そこに載っているのは、フリフリ透け透けのベビードールやきわどい下着。
『彼女に贈りたい下着人気ベスト10』などと
書かれた、いわゆるアダルト系の下着なのである。
「な……っ!」
「この世界にはこんな可愛らしいものも売られているんですね」
「……っ!!」
顔を真っ赤にして口をパクパク鯉のようにあける望美の耳元で、そっと囁く。
「僕が贈ったら身に着けてくれますか?」
「…………!!!!!」
耳まで真っ赤に染めて絶句する望美に、弁慶は
楽しそうにくすくすと笑みをこぼす。
「僕は本気ですからね?」
駄目押しの一言を告げると、混乱状態に陥った
望美の肩を引き寄せる。
こうしてしばらく、弁慶によって恥ずかしい下着を着させられる望美であった。