「私、知盛が単純にすけべなのかと思ってたんだけど、もしかしてこの時代の人がみんなああなのかな?」
「はあ?」
「だって重衝さんも初対面の時に「今宵あなたに触れることを許してほしい」とか言われたんだよね、そういえば。だからそうなのかな~って」
(重衝……お前もかよ……)
銀髪兄弟の手の早さに頭を抱えるも、ふと浮かんだもう一組の兄弟を口に乗せる。
「敦盛や経正はどうだ?」
「敦盛さん達は……そういうこと言われたことないかな」
「だろ? あいつら二人が特殊なんだよ」
「……ほお? 神子殿は口説かれるのをご所望なのか……」
「神子様が望まれるのでしたら喜んで今宵お伺い致します」
「知盛? 重衝さんも……!」
両側から抱き寄せる知盛重衝兄弟に、望美が慌てて身をよじる。
「重衝……その手を離せ」
「それは兄上のご要望でもお応え致しかねます」
「ほお……?」
「と、知盛、刀! 重衝さんも武器しまって!」
「ほら、落ち着けって。重衝も、望美は知盛の許婚なんだ。諦めろ」
「……まことに残念ですが、神子様が望まれるのならば仕方ありません」
将臣の仲裁で渋々武器を収めた重衝に、望美はほうっと息を吐いた。
* *
その夜。
湯浴みを済ませた望美が部屋に戻ると、珍客がいた。
「知盛? どうしてここにいるの?」
「許婚が尋ねてきてもなんらおかしいことはない、だろう?」
「おかしいよ。昼間会ったでしょ?」
「神子殿は俺に会いたくない……と?」
「そんなこと……ない」
知盛は好いた相手……尋ねてきて嬉しくないはずなどなかった。
「お前も……飲め」
「私はいいよ。飲めないもん」
「ふん……」
珍しく酒を勧める姿を不思議に思いながら、望美は御簾向こうを見つめた。
「今日は十六夜だよ。どうせなら月見酒のほうがいいんじゃないの?」
「俺を部屋から追い出したいか?」
「違うって。今日はやけに絡むよね。もしかして酔ってるの?」
呆れて見れば、思いがけず向けられていたのは熱のこもった視線。
「キャッ! と、知盛?」
「嫌がるかと思えば容易く男を部屋へ招き入れる。お前は何を考えている……?」
「何って……部屋に勝手に入ってたのは知盛でしょ」
「追い出さなかったのはお前だ……」
床に縫いとめられた手首。
触れるほどに近い整った顔に、どくどくと早鐘を打つ。
「ん……」
触れた唇は思いのほか優しく、鼻腔を酒の香りがつく。
「知……盛……」
「俺に触れられるのは嫌……か」
「知盛に触れられるのが嫌なんじゃなくて……その、こういう経験がないから戸惑うんだよ」
望美に男の経験がないことは、その初心な反応からもわかっていたが、まさかここまでとはと知盛がクッと唇をつりあげた。
「有川が言っていたのはこういうこと……か」
「将臣くん? 将臣くんがなんて言ってたの?」
きょとんと見返す瞳に押さえ込んでいた手を開放すると、身を起こして座り直す。
処女にこだわる趣向はない。
逆に手順を踏むことを考えれば面倒でもある。
だが、望美が他の男の腕を知っているのを望むかといえば、当然答えは否。
「これも一興、か」
再び盃を傾ける知盛に、望美はわけがわからず頬を膨らませた。
望美は人を好色のように言っていたが、過去知盛から女を望んだことはなかった。
もちろん、勝手に寄ってきたものを据え膳食わぬをすることもなかったが。
「知盛? ……っ!」
「今宵は……これで勘弁してやろう」
覗き込む望美を抱き寄せ、結い上げられあらわになったうなじに唇を寄せると、真っ赤に染まった顔に笑みを浮かべた。