平家一門が生き残ることを望んだ望美。
平家一門が残ることを望んだ清盛。
どちらも平家存続を願いながらも、合間見えることは出来なかった。
清盛が光の欠片となって完全に消えていくのを、望美は痛みと共に見送った。
「先輩、危ないっ!」
譲の声と共に覆いかぶさった広い胸。
その胸が真っ赤に染まっていく。
「譲、く……」
急速に血の気を失っていく幼馴染に、望美は信じられない思いでその後ろを見た。
そこにいるのは、銃口を向けた景時。
「景時!? 何をする!」
「九郎。これは頼朝様の命なんだよ」
「兄上の!?」
感情を失した冷徹な表情の景時に、弁慶がすっと目を細めた。
「……禍根は断つ、というわけですか」
「く……っ」
頼朝の考えは当然といえた。
だが、一時は仲間として行動を共にしていた譲の死に、九郎の顔が切なげに歪む。
目の前が赤く染まる。
皮膚に感じる熱さ。
火が射かけられたのだと、気づいた時には船は炎に包まれていた。
「…………だ……」
赤い。
全てが赤い。
「………………っ!!!!!!」
声に出来ない絶叫が喉を震わせる。
「神子っ!」
耳元の声に、望美は呆然と顔をあげた。
「はく……りゅ……う?」
それは源氏を抜けてから会っていなかった、自分を神子にと選んだ龍だった。
「神子は死なせない。私はあなたの龍。あなたは私の神子だから」
微笑むと、喉元に手を伸ばす。
そこにあるのは、龍の命の源である鱗。
「白龍……? ……っ! だめっ!!」
その意図に気づき、制止の声を上げる望美の目の前で、白龍が己の喉から逆鱗を剥ぐ。
そうして震える望美の手に握らせると、白龍は柔らかく微笑んだ。
「生きて……神子」
瞬間、世界が真白になる。
炎も。
源氏も。
全てが目の前から消え失せた。
……。
…………。
――――…………。
雨音が、耳をつく。
ぼんやりと音の方へ視線をやる。
視界に映るのは打ちつける雨。
そこはあの始まりの時――雨の学校だった。
「……っ……どう…………っ」
喉が、震える。
胸の奥底から湧き上がる感情があまりにも大きすぎて、声は音にならずに喉を震わす。
眼前に広がった紅の色。なのに掌を染めていた大切な人の流した血は、何もなかったかのように消えうせていた。
そう―――全てが夢であるかのように。
「…………じゃ……い」
心の奥底から沸きあがる。
「夢なんかじゃない……っ! 将臣くんは……譲くんは……平家は……っ!!!」
庇い、倒れた幼馴染の重さ。
熱く燃えた船。
生々しく脳裏に映し出されるそれら全てが、現実に起こったことだった。
「私だけ……戻ってきて……っ」
自分のために己の命を投げ出した龍によって、望美だけがただ一人逃れ、生き残ったのだ。
「……………っ!!!!!!」
行き場のない怒りが、嘆きが、絶望が溢れ出す。
壊れてしまったかのように泣き叫び、拳を何度も地に打ちつける。
だが叩きつける激しい雨が、それらの音を全てかき消した。
どれぐらい泣いただろう。
叫んだだろうか?
全ての気力が失せ、抜け殻のようになった望美は、ふと掌で光り輝くものに気がついた。
ぼんやりと開くと、そこには白い鱗が一枚。
「これ……は………白龍の……逆鱗?」
炎に包まれ、死が間近に迫った瞬間、命の源である逆鱗を望美に託し、消えた白龍。
と、昔交わした言葉を思い出す。
『……神子、時空を越えるなら、方法、あるよ。私のこの、喉の逆鱗。龍の鱗は時空を越える力があるから、逆鱗を使えば、神子は時空を飛べる』
「白龍の逆鱗……これがあれば時空を越えられる?」
問うような呟きに、手の中の鱗は淡く輝き同意を示す。
「私は……時空を超えられるなら」
救いたい、あの人を。
守りたい、愛する人たちを。
「もう一度あの世界に行こう。―――大切な人を助けるために」
強い決意を胸に瞳を閉じると、望美は白い光に身を委ねた。
全てが始まったあの福原へ―――。
神子は翔ける……遙かなる時空へ。
神子は求む……切なる願いを。
強き思いと願いを持って、今、望美は遙かなる時空へと駆け出した。
【1周目終了】